社長の妹を蘇らせろ
信じがたい現実だが、信じられる真実だ。ルーシはここへ来るとき、たしかに天使と接触していたからだ。
そしてその天使は、いまルーシの家で惰眠を貪りながら、酒でもあおっているに違いない。
ならば……、
「なら、タイペイは……? 私の、たったひとりの妹は?」
銀髪の幼女は、目を見開いて救いの糸に手を伸ばそうとする。
だが、ルーシにとってもっとも重要な少女は、またもや、するりとその手を抜けていく。
「……ああ、社長。残念だけど、多分来られねェってさ」
リヒトの言葉に、ルーシは消沈と黙り込む。椅子に座って、葉巻を1回吸って吐き、苦しげな表情を初めてクールたちに見せた。
「……オマエら。全部私から説明すべきだよな。私は転生者だ。21世紀の日本というところからやってきた。コイツらは昔なじみの仲間で、とても有能なヤツらだ。リヒトと……マーベリックは偽名だろうが、間違いなく私の部下だったヤツだ。仲良くしておけ」
そのまま黙り込み、浮かれていたリヒトも周りの雰囲気を察して、口をつぐんだ。
やがてルーシは、「外の空気、吸ってくる」といい加減な理由で、会議室を出ていってしまった。
「……で? どういうことだ?」
最前起立せず、ほとんど眠っていたクール・レイノルズは、妙に重苦しい雰囲気に目を覚ます。
「社長には妹がまだ必要なんだ、かっちょいいおっちゃん」リヒトが返答した。
「おっちゃん? ああ、まあ33歳だしな。それで、妹? アイツ妹いたの? ソイツが死んだと?」
「前世でな。あのときから社長は狂い始めた。おれたちの部屋に盗聴器仕掛けたり、ぶっ壊れたみたいに笑い転げたり、致死量レベルのヤクを食ったり……。だから死んじまったんだ」
「え? なに、オマエらも死んだの?」
「おれもマーベリックちゃんも抗争で死んだ。おれに至ってはタイペイの葬式にも出てねェ。けど、いまタイペイは守護天使って役割してて──」
「へえー。アイツ可愛そうだな」気の抜けた返事とともに、「なら蘇らせようぜ。タイペイってヤツだよな? それで守護天使だろ? だったら強制召喚すれば良いじゃん」
リズム良く無稽なことを口走るものだから、リヒトとマーベリックは頭をかしげ、怪訝な顔色になる。
「おじさん、なに言ってるんだ? タイペイは死んでるんだぞ?」
「いや、天使になったのなら行ける。オマエらもここへ来られただろう? この国にァ転生者は山ほどいる。差別問題になるほどだ」
背丈が高く、顔立ちは俳優級のクール・レイノルズは、銀行強盗より簡単なことをするかのように言う。
「……マジで言ってンの? マーベリックちゃん、どう思うよ?」
「……敬語使ったほうが良いんじゃない? その方、この国でもっとも強い魔術師だよ?」
スキンヘッドの黒人と着物姿の日本人らしき女が、最前からせわしなく目や手を動かしていたことなど知るよしもなかったリヒトは、それでも彼らしい態度で答える。
「強い魔術師がなんだよ! 肩書きなんてクソの役にも立たねェ!! タイペイを復活させるって言ってるんだぞ? 社長の妹だぞ? もう会えねェって言ってただろ!? タイペイは!」
「ふーん。なら駆け出しだな、その子」




