クローン、レイノルズちゃん
LTASの東街、イースト・ロスト・エンジェルスはルーシの街だ。
大半の住民は、ここを取り仕切っているのはクール・レイノルズだと考えているだろう。
10歳の幼女が(中身、18歳男子)裏社会の猛者たちを取り締まれる世界などないので、正常な考えである。
とはいえ、18歳の無法者なんて鉄砲玉程度の役割しか与えられないので、ちぐはぐなのは否めない。
「アネキ、到着しましたぜ」
「ご苦労。ポールがいねェとオマエらも大変だろう?」
なお、ルーシとクールの腹心、ポールモールは、このふたりの犯罪を被る形で刑務所に努めている。
「そりゃクールのアニキは脳筋ですからね。峰さんがいなきゃと考えりゃ、背筋も冷たくなりますわ」
そんな運転手はクール直属の部下だ。アメリカ、基、『アメリカーナ』の南大陸からやってきたのだろう。中南米系統の肌の色がそれを証明し、同時にこの国の人種差別がないことを示している。
「でもアネキ、ポールモールさんも次期に釈放しますよ。こっちも計画立ててるんで」
「へえ。そりゃ良いことだ」
カネを渡して、ルーシは自身のオフィスの前にたどり着く。乗っていた黒塗りのベンツは地下駐車場へと吸い込まれ、その銀髪幼女は顔をぱんぱん叩いて陣地にいざ参る。
「プレジデント。おかえりなさいませ」
「うつ病は治ったのかい?」
「おかげさまで」
「そうかい。まあ気をつけろよ。私たちが仕事中毒な所為で、他の社員がどんどん過労死しちまっている。休暇は定期的にとってくれ」
「承知です」
ルーシの企業『スターリング工業』。表向きは証券会社となっている。違法寸前の取引で荒稼ぎし、投資委託してきた客からの評判はうなぎのぼり。
だが、本質はマフィアの摩天楼だ。
殺人・麻薬・武器・詐欺・恐喝・強盗……業深き無法者たちが9割を占める企業モドキである。
「着替えるかね」
その銀髪の幼女は、専用の個室に入ってスーツを取り出す。身長が一行に伸びないから、どうしても仮装感が否めない。
それでもスーツを着ないと仕事をする気にならない。ある種の職業病だ。
赤のツヤありスーツにグレーのシャツという出で立ちで、ルーシは会議室へと向かっていく。
「レイノルズちゃんを停止しねェとな……。自分の意志を反映するヒューマノイドなんて怖すぎるぜ」
ルーシは一時期『スターリング工業』を離れていたが、なにも本島から完全に離脱していたわけではない。しっかりダミーを用意してあった。
『レイノルズちゃん』と名付けたそれは、いわゆるヒューマノイドと呼ばれる機体だ。見た目から人間でないことを判別することは不可能。ラジコン操作の感覚で魔力や動きを遠隔操作できる。
ただしコントローラーは使わず、あくまでも脳波で動き回る。その近未来型影武者を呼び寄せ、電源を切った。
「股触れねェと電源切れない仕組みにしたヤツを詰めてェな。普通、こんなところに指紋センサーつけるか?」
自分とまったく同じ見た目をしたロボットの股を触るとき、もし濡れていたら惨めだと感じる。
当然そんな機能は備わっていないので、服越しに人肌そっくりの感触を得ただけで終わったが。




