インターネットの果実、クーアノン
「笑い事じゃないんだけども……」
そんな憔悴したアークを見て、童心に帰ったかのような笑い声をあげていたルーシ。
だが、この街は大声をあげて笑っていられる場所でもない。
矢先、ルーシとアークは立ち上がる。
「私が右を片付ける。オマエは左だな」
「了解」
パーカーをかぶった、あからさまなギャングらしき者が10人ほど。空間移動を使ってこちらとの間合いを狭めたのだろう。左右できれいに5人ずつ割れていたので、色々とちょうど良い。
「てめェらメイド・イン・ヘブン学園のランクSだろ!? タタキの相手にはお誂え向きだよなぁ!?」
「あ?」ルーシは怪訝な顔をする。
「魔術師が大手振って街歩ける時代は、もう終わったんだよ!! 連邦の恥さらしども!! 顔面とプライド破壊してやるよ!!」
いつの間にか、魔術師はロスト・エンジェルスの恥さらしに成り果てたらしく、動乱に気がついた者たちも助けようとはしてこない。
あとでアークに異変を聞いてみることにして、ルーシは目を閉じ、碧い目を見せつける。
刹那、魔力が開放された。男性特有の体液を発射するような感覚だ。
そうすれば、あっけなくチンピラたちは地べたを這いつくばった。鈍い音とともに。
「顔面とプライド、破壊してやったぞ?」
ルーシはニヤリと笑い、相手を侮蔑する。
この世界における魔力は質量でも持っているのか、放射すると強力な攻撃手段になる。
「アーク、コイツら何者なんだ?」
ルーシと同じく魔力の開放で敵を地面に押し付けたアーク。彼は首を横にぶんぶん振る。
「最近できた政党のシンパじゃない? ロスト・エンジェルスにいる魔術師は全員魔女で、即刻宗教裁判にかけて吊るすべきとか言ってる」
「それって極右? 極左?」
「ある意味極右じゃない? 連邦の根幹を否定して、神様とかなんとか言ってるから」
アークは退屈げな態度でそう言い放つ。
「ちくしょう……。魔術師がいるから戦争が起きるんだ。貴様らは罪人だ。神の名の下に罰せられるべきなんだよ──!!」
制圧した男のひとりが拳銃を取り出そうとしたので、ルーシは脊髄反射的に彼の手を撃ち抜く。
シンプルな黒のジーンズから取り出された女性用小型拳銃を見て、アークはやや面食らう。
「10歳の子が持ってちゃだめでしょ」
「例外だよ。その幼女が銃を持っていたら殺されなかった……なんて報道されたくねェだろ?」
手に穴が空いて悲鳴を上げる男を後目に、ルーシたちは警察への通報をする。
「襲われました。ええ、青の公園です。クーアノン党の連中だと思われます」
アークは手短に情報を伝達し、警察がやってくるまで待機することになった。
「拳銃、捨てたほうが良いんじゃない?」
「いや、そもそもサツと私は仲悪いんだ。先に撤退しておく。どうせアイツらなにも言ってこないはずだ」
「分かった。学校始まる頃、また会おう。ルーシ」
「あいよ。マイフレンド」




