病的性欲
久しぶりに戻ってきた本島。夏休みの間、麻薬と武器を製造するためにちいさな島に潜んでいたルーシは、当然キャメルとメリット以外には会っていない。
そして仕事は順風満帆に進んでいる以上、ルーシのようなイレギュラーしか起こさない存在はいないほうが良い。こういうときは他の連中に託して、危険思想者は恋人を呼び出せば良いのだ。
「よォ。帰ってきたぞ」
『ルーちゃん!! どこ行ってたの!?』
「夢の国だな」
『夢の国なら行ってみたいな! 今度連れてってよ!』
「補習地獄で本島を出られないだろうに。次のテストでも赤点とったら、クビが見えるぞ?」
『んー……。なんで私MIH学園に入っちゃったんだろ。勉強難しいよ……』
「メントといっしょに勉強会だな。学校終わったら教えてくれ」
『えー……。勉強やだなー……』
「学生なんだから仕方ない。切るぞ。近いうち会おう」
ピクニックに訪れる市民の多い、人工的自然あふれる公園のベンチにもたれながら、ルーシはパーラとの通話を終わらせる。暇さえあればタバコを咥えている人間だから、禁煙区域でないことを確認して咥えようとしたときだった。
「やあ」
「ランニングかい? アーク」
「そんなところ」
アーク・ロイヤルが現れた。金髪の翠眼、女性風な顔立ち、若干パーマのかかった長髪は、前世いた日本の人々のごとく眉毛まで隠している。
「オマエ、運動好きなんだな」
「まあね。ゲーム10時間連続でやるには、筋力も必要になってくるから」
「ゲームか……」
ロスト・エンジェルス連邦共和国。18世紀末期の島国に家庭用ゲーム機があって、パソコンでゲームもできて、配信者が荒稼ぎしているのだから、未だルーシも腑に落ちない。
「FPSとかやんないの?」
「たまにやるかね。パーラが勧めてくるんだ」
「……良いよね、ルーシはさ」
「なにがだよ」
アークは黙って携帯電話の画面を見せてきた。そこには、毛布がもぞもぞ動く絵面が広がっている。それだけでは自慰でもしているのだろうと考えて終わるが、次の画面を見たとき、ルーシは思わず吹き出してしまった。
「たしかにな! パーラはこんなことしねェし!」
「……幼なじみの部屋に押し入って────、してくる娘と付き合うのってさ……無理だよ」
アークは苦虫でも噛み潰した顔で、画面に映るキャメル・レイノルズを拒絶した。
「良いじゃねェか! コイツ頼めばなんでもしてくれるぞ?」
ルーシは笑い散らして、腹部の筋肉がつってしまうほどだった。
「不法侵入だよ? 起きる度に疲れてるから定点カメラつけたらこれ。キャメルの性欲って病的じゃない?」
「ロスト・エンジェルスには性依存症が100万人いるんだぜ? だがこりゃひでェ。もう豚箱に入ってもらえよ。それともなきゃ、話し合うしかないな」
「嫌だよ……ふたりで会うとろくな目に合わない。カマキリのメスが、交尾のあとオスを食べてしまうような感覚に襲われるんだ」
「オマエって女運ねェな~。まあ端から見ている分にはおもしれェけど」




