転生者、ルーシ
リカバリを効かせる。すこしずつ正常な乙女心とやらが分かってきた。もっとも、キャメルの場合正常とは言い難い一面があるが。
「ねえ、ルーシちゃん」
「なんですか?」
「いえ……こんなこと10歳の娘に聞くことじゃないわよね」
「私にも恋人はいますよ? パーラって娘が」
キャメル・レイノルズ。顔を赤らめるその少女は、ついつい暴走してしまうときがある。異性が絡むときだ。普段は冷静に振る舞うが、好きな男の子の話となれば、彼女は男子中学生顔負けの性欲を剥き出しにするのだ。
「で、でも、貴方たち女性同士でしょ?」
「真似事くらいはしていますよ」
ルーシはキャメルが分からないように、微笑しか浮かべていない。しかしその腹は大爆笑のあまり爆発しかけている。そして混乱を高みの見物するときより、楽しい時間なんて存在しない。
「アークと既成事実をつくってしまえば良いんじゃないんですか?」
はっきりした物言いだった。ロスト・エンジェルスのありふれた路上にて、キャメルは顔を紅葉のごとく染めていく。
「……貴方はいつも私の考えを読むわよね。前世の記憶があるって言ってたけれど、ひょっとしたら自覚のない転生者なのかもしれない」
「転生者?」
「ロスト・エンジェルスには転生者がたくさんいるわ。別の世界からヒトを受け入れてるのね。もしかしたら、ルーシちゃんもそれに該当するかもしれない」
キャメルは、いつだか訊いたことのある情報を口走る。ルーシはそれでも表情を変えず、「歩きましょう、お姉ちゃん」と催促した。
「まあ、もしかしたらそうかもしれませんね。前世の記憶があるのも変な話ですし」
(そうかもしれない、じゃないな。そうなんだよな。おれは転生者に当てはまるんだろう。アホ天使の言い草考えると)
「と、なれば、お兄様との関係性って……」
ブラザーコンプレックスのキャメルにとって、自身の兄が実の娘を拵えたのはまだ許容できる話だが、ルーシが転生者ならばそれが大嘘ということになる。
「ええ……真実をお話しましょうか」
ルーシはキャメルの目を見ないで、彼女のやや先を歩く。
「私とお父様は血がつながっていません。街をふらふらさまようだけだった私を、お父様が救ってくれたんです。しかし……キャメルお姉ちゃんだって複雑でしょう? 正しい養子縁組を組む資料がないのに、お父様が私を匿っていたら捕まる可能性も出てくるわけですし」
口八丁はルーシの得意分野だ。この銀髪の幼女が天才的だと称される所以でもある。
「だからお姉ちゃんと初めて出会ったとき、お父様と私は嘘をつきました。すべてはお兄様がお姉ちゃんを不安がらせないように。しかしいまはちゃんと養子縁組を組んでいるので、ちゃんと親子ですよ?」
ルーシはキャメルの方向を振り向き、にこやかな表情を見せる。この邪気のない笑顔が、この姿になって得られた武器だ。
だからキャメルは、納得せざるを得なかった。




