陰キャ嫌いの陰キャ
無法者の頭領が、ロスト・エンジェルスへ戻ってきた。
ただし仕事場へは向かわない。護衛もつけず街を歩く。
「おもしれェヤツいねェかな」
この幼女、歩きタバコはしない主義である。路上で酒も飲まない。そのため傍らにはエナジードリンクがある。1日が240時間ほどの幼女にはぴったりだ。
「おッ」
「あっ」
「久しぶりだな」
「相変わらずくたばらない。アンタが死ねば借金払わなくて済むのに」
「踏み倒しは良くねェぞ? メリット」
気温12度ほどのロスト・エンジェルス。きょうは暖かい日ではあるが、半袖のシャツを着ている者なんていない程度には肌寒い。それなのにタトゥーを見せびらかしたくて半袖を着ている、高校3年進学決定の少女メリットと出会った。
黒髪の黒目に猫背の不気味な雰囲気が彼女を引き立たせる。
「メガネ、やめたのか?」
「あんなの、陰キャがつけるものだし」
「オマエは本当に陰キャが嫌いだな。だから陰キャなんだよ」
「は?」
「街歩くぞ」
メリットは不満げだが、気にしもしない。
「桜の木があったら最高だがな」
「アンタ、帝ノ国出身じゃないでしょ?」
「祖国みてーなものだ」
「アンタが祖国って言ったらそこのヒトがかわいそう」
「辛辣だねェ。便秘4日目と見る」
「は?」
「図星だ」無邪気な笑顔を浮かべる。
「クソガキにはこの苦労が分かんないでしょ」
「肌荒れ嫌うのにタバコ吸うようなヤツの悩みなんて、分からんよ」
そんなこんなで険悪そうだが、存外仲が良いふたり組のようにも感じる。それはルーシの少々邪気の抜けた笑みからも感じ取れるかもしれない。
「クソガキ、一服しよ」
「禁煙したと言ったら?」
「あり得ない」
「ありえたら?」
「私も辞める。アンタに負けたくない」
「はッ。かわいいヤツめ。ほら、1本やるよ」
……というか、からかって遊んでいる感が強い。
「12ミリなんて吸えない」
「私に負けないんじゃないのか?」
「……分かった」
どう見ても高校生な少女と小学生な幼女が喫煙所へ入り、誰もその異質さゆえに近寄れないのだから、この街の自浄作用は息もしていないのかもしれない。
*
「ほらー。吐く寸前まで吸うなよ~。水飲んで落ち着け」
「いら……ごほっ……な……」
「意地っ張りなヤツは良いねェ。お姉ちゃんに会いたいな」
ルーシは銀髪の髪をなびかせ、なんとなく女っぽく振る舞ってみる。だんだん女でいることが楽しくなってきたのだ。
「なに……女みたいに……振る舞ってる……の……ゲホッ……!!」
「私は女だ。なにが悪い」
「そもそもヒトじゃない……あー。落ち着いた」
水を一気飲みして落ち着いたらしく、メリットは普段の不気味さを取り戻す。最前のほうが可愛らしいものがあったな、とルーシは彼女を見てニヤリと笑い思う。
「さて、陽キャのメリット。その高等なファッションは私には似合わねェが、さすがに良い服屋知っているんだろう? おめかししたい年頃になってきたんだ」
「アンタ、いつも制服だもんね」
中学生みたいな服装している人間にそう言われるあたり、ルーシも落ちぶれたものだ。




