金鷲の雷槌(*)
アークは首を縦にふる。
その覚悟に満足したのか、ポールモールは彼の肩を叩いて、最大の戦地へ向かう。
金鷲の雷槌が響いていた。
すべてを葬り去る雷槌……とおもいきや、案外照準は絞れているようだ。
標的はルーシの友人たちに向けられていた。
アークはがむしゃらに走り、まずメントと青髪の少女に忍び寄る雷を魔力で静止した。
「アーク!? なんでここに──!?」
「良いから!! 伏せて! 手が来たら握って! ここにいたら必ず死ぬ!!」
必死の説得だ。言葉も単調かつ短く済ませる。
「わ、わかった!」
青髪の少女はその剣幕に圧倒され、了承した。
続いてアークはこんな状況下でも動けないふたりを見つける。メリットとピンク髪の女だ。どうやら治療を行っていたようである。
「ふたりとも動けないの!?」
「……そんなにキレるんだったら動く」
「あのー……ルーシさんはなにをしようとしているんでしょうか?」
「すべての問題を解決する問題を起こそうとしてます! 説明はそれだけで充分でしょう!?」
頷かざるを得ない。ピンク髪の女はメリットの手を握り、どこかへ消えていった。
「ルーシ……、もうすこし自分を大切にしたほうが良いよ。みんなが君のために動いてるんだ。それなのに、君は自分を大切にしないんだから」
憂いは断った。アークはその金鷲の翼が黒い塊を食い散らかしたのを確認し、最後の力を振り絞る。
「最後に勝るのは愛なんかじゃない。それはきっと……」
この戦争をどう終わらせるのか、ルーシは昔から考えていたはずだ。
始めるのは簡単だが、終わらせるのは難しい戦争を。
ルーシ自体が行っている仕事的にも、なにか嫌な予感が働くパーラという恋人的にも。
「人間の持つ、純粋な暴力性。君はそう言いたかったに違いない。だったらボクはこう答える」
金鷲の翼の中心部にいるルーシの意識は、ない。
だが、ルーシがアークに助けられることを良しとするか? 自分が誰かを助けても、誰かが自分を助けることに屈辱感すら覚えるのがルーシという人間だ。
「最後に勝つものは……自分自身だ。自分の意思なんだよ。そうでしょ、ルーシ……!!」
意識だって飛んでいる。いまのルーシはなにもできない。ただ責任を放棄してふて寝する存在にすぎない。
それでも、アークの考えをルーシが理解していれば、ルーシは最終手段の最終手段を使ってでも、この場をひとりで切り抜けられる。
その瞬間。
ノース・ロスト・エンジェルスが大雷鳴とともに再生されていった。
その雷は破壊のためでなく、再生のために存在する。
「……心配したよ。やっぱりキミは」
暗い空のなかから現れたのは、銀髪碧眼の幼女だった。
ルーシ・スターリングは最後の最後で自分を取り戻したのだ。
「……死なねェものだな。地獄にいる盟友たちよ、再開はまた今度だ」
金鷲の翼が静まり返っていく。それはつまり、ルーシがすべての問題を解決したということだ。
最初から最後まで、すべては身長一五〇センチの幼女の掌に収められていた。