LTASと地獄が直通中(*)
それがゆえ、アークはふたりを止めようとした。このふたりの魔力ならば、奥の手が暴走することも防いでくれるとルーシは考え、アークは納得したわけだ。
それでも、未だアークたちはクールを止められない。
ならば、倫理性や人間性を懸けて、そんなことくらい大人がすべきではないだろうか。
「……わかった。あのお二方はおれたちが止める!!」
背丈の高い黒人と狐のお面をした女が現れた。
「聞いての通りだ。全員で突破するぞ」
「御意」
「かしこまりました」
時間は少ない。慣れっこだ。
だからポールモールはふたり──峰と八千代を空間移動で空へ舞い上がらせ、自身もすべての魔力を空中高くから放射した。
そしてついに、ふたりが揺るいだ。
「……あ?」ジョンが異変に気がつく。
「身体が動かねェな。ポーちゃん、横槍か?」
「大人が果たす義務を子どもが果たそうとしてたので、それを取り戻しただけです。いますぐ喧嘩をやめてください」
クールとジョンは互いの目をにらみ合う。
そして、首を振って不機嫌そうに地上へ降りていった。
「ッたく、ずいぶん荒れちまったな。なのに、蹴りがつかねェのか」
「仕方ねェだろ。まったく、オマエのところの子分は良い働きするねェ。始末書じゃ済まなかったぞ、こりゃあ」
いい加減な態度。投げやりである。
しかし納得してもらうほかない。このふたりが必ず鍵になるからだ。
「お二方、これからルーシがなにかをするつもりらしいので、魔力を開放する準備をしておいてください」
「ルーシ? たしかおめェの娘だよな?」
「ああ、腕が立つんだ。しかしなにかをする? なにをするってんだ──」
刹那の出来事である。
街からついに電気が消え去った。電流が半強制的に一点へ集められ始める。
「おお? 電気が抜けてくんだけど」
「お兄様……? なんで止まったのかしら──」
そして、金色の翼が輝き始める。
ロスト・エンジェルス本島はおろか、きっと海を挟んだ先にある他国からでも見えるであろう『金鷲』の翼だ。
「なるほどねェ……」クールはニヤリと笑う。
「魔術では動いてねェな。とんでもねェのを娘に持っちまったようで。クール」
ふたりは顔をあわせ、少年期に戻ったかのような笑顔を浮かべる。
だいぶ消耗しているが、これをはねのけられない『ロスト・エンジェルス最強』など、その称号にふさわしくないのは明白だ。
「さて、と。子どもたちを守るかぁ」
「つか、キャメルも来てたのか。おれら、やりすぎたみてーだ」
ふたりの化け物が腕に魔力を溜め始める。
峰と八千代もそれに乗り、合わせてポールモールも防衛を開始しようとするが。
「……ルーシのもとにいくらか魔術使ってる人がいるはずです」
アークの視野は非常に広かった。あの場にはルーシの友人がいるのだろう。
「その人たちを助けなきゃならない。ポールモールさん、お願いします」
ポールモールはなんとも優しげな笑みを見せる。
「わかったよ。こっちはもう戦力過剰だ。ただし覚悟しておけよ? 無神論国家と地獄は直通してるんだ」