金鷲の翼(*)
最終決戦。
戦局は相変わらずの悪天候。死傷者も現れ始めただろうに、あのふたりは戦闘をやめようともしない。集中し過ぎて周りが見えなくなっている。
「そもそも近寄れるのか。あれに」
アーク・ロイヤルはそうつぶやいた。
現在、クール・レイノルズとジョン・プレイヤーの闘いはピークを過ぎつつある。されども、漂う魔力の圧はアークひとりでどうにかできる話でもない。
「でも、できなきゃ死ぬだけだ。死にたいとは思わないね」
どちらを叩くか。
対峙するクールとジョンは頻繁に勝敗の優劣が揺れ動いている。だから不利なほうを止めて有利なほうを正気に戻す……なんて真似はできない。
「狙うは……クールくんだ」
しかし手をこまねいている暇がないのも事実。もしかしたらアークの存在を認識するかもしれないと、知り合いの一手に懸ける他ない。
アークは全速力でクールとの間合いを詰める。
「クールくん!! もう辞めるべきですよ!! これ以上死んだら……」
だが、声は届くはずもない。アークは炎の塊による手痛い仕返しを食らい、地面まで真っ逆さまに転がり落ちていく。
「アーク!!」
アークの意識が飛びかけていることを知ったのは、クールとジョンの戦闘の見届け人を行っていた、クールの懐刀ポールモールだった。
ポールモールは空間移動でアークの元へ向かい、少年を回収する。
「オマエ、無茶な行動するなよ! ピークアウトはまだ来てないぞ!?」
「……ポールさん」
「あのアルビノの子が電気を溜めてるんだろ? だったら決着を急ぐな! 死にに行くようなものだからな?」
「……いや、あの雷は別の方法に使われるはずです」
「あ?」
「このNLAでもうひとつ戦争が起きてる……。それを解決するのはルーシだけど……このままじゃみんな死んじゃうんです」
アークは吐血しつつ、なにかを知っているかのように語る。
「……内蔵やられてるだろ? 背負いすぎだよ、オマエ」
「誰かが責任を負わないと、いつまで経っても”勇者なき平和”は訪れないので……」
「……チッ」
ポールモールは舌打ちをする。この頑固さ、まるでクールのようだ。
しかし、クールと違ってアークは子どもである。ポールモールは外道なマフィアだが、それでも最低限の倫理性くらいある。
「……ルーシがなにをするんだ? それ次第で、アニキとジョンさんの動きは変わってくるんだろう?」
「ルーシは……」
ゲホゲホと咳き込む。もはや限界が近い。されども、アークはルーシが吐露した最終手段を告げる。
『なあ、アーク。私は常に最悪と最善を考える。意味、分かるかい?』
『さあ、君は嘘つきだからね』
『言ってくれるなぁ。拗ねちゃうぞ? まあ良いや。最悪の状態に備えて、伝えておきたいことがある。クールにも、メリットにも話していないことだ。良いか──』
「最終的解決方法として、『金鷲』の翼を解除しすべてをぶっ壊すつもりです。でも、その先に待ち受けてる未来は、当人にもわからないと……」
つまるところ、このままではこの場にいる全員が死ぬというわけだ。
シエスタもピアニッシモもクールもジョンもキャメルもアークも。
だが、そんなことをすれば後々首を締められるのはルーシだ。なにか裏があると考えられる。
「でも……クールくんとジョンさんが協力して魔力を放射すれば、ぼくたちも助かるだろうって……」




