無法者の生き様
「なるほど、やべェヤツらなんだな。関わらねェようにしないと」
刹那、後ろに人の影を感じた。ルーシはスカートの裏から拳銃を取り出す。
「おいおい、おれだよ。姉弟だろ?」
「……クールか」
クールはすこし酒が残っているようだった。顔が赤く、髪の毛が乱れている。
「おっ、セブン・スターズじゃん。懐かしいな。高校生のころ勧誘されたことがあるんだ」
「……あ?」
「大学出たときも誘われたな。そんな大層な立場になったら、立ちションもできねェって断ったが」
酔っぱらいのいうことである。ルーシは無視しようとするが、そこへ胃の中に入っていたものを吐き出したポールモールが戻ってきた。
「ええ、アニキは2回セブン・スターズに勧誘されたんですよね。2回招請されて2回断る人なんて聞いたこともなかった」
「仕方ねェじゃん。おれは自由に生きてェんだよ。年俸が5000万メニーだっていわれてすこし迷ったが、政府のお偉方を守っても仕方ねェと思ってさ」
「それでギャングになると。破天荒でしたね」
「ああ。あンときは金がなくて辛かったけど、この街を締めるようになってマフィアへ昇格してからは、おめェの助けもあってだいぶ楽になった。感謝してるよ、マジで」
「そういう割には、金がなくて1週間絶食とかしてたじゃないですか。おれがアニキの汚ねェ家行かなかったら、餓死してましたよ?」
「ははッ、悪リィ悪リィ。でも、そういう人生のほうがあってるんだよ、おれにはな」
そうやってクールとポールモールの昔話を聞いていたルーシは、仮に自身の超能力の本質に気がつけなければ、間違いなくクールへ負けていたことを知る。ルーシも生前数多の強敵と闘ったが、軍集団を殲滅できるほどの実力を持つ人間とは闘ったことはさすがになかったのである。
「で? 姉弟に今月の上がりは渡してねェのか?」
「ええ、いますぐ渡しましょうか?」
「だな。おれたちの上に立つお方だ。いつまでもボロ衣みたいな服を着させておくわけにもいかねェだろ」
「では」
ポールモールは金庫を開け、現金の山を一部取り出す。
「上がりは何割だ? 相場じゃ1ヶ月の稼ぎの2割か3割だが」
「1割で構わない。オマエらから搾り取るつもりはねェよ」
「じゃ、30万メニーだな」ポールモールはケースを渡す。
「ご苦労。これで服が買えるな」
時刻は6時を回った。デパート開店まであと3時間である。
「アニキ、そろそろパーティーで騒いでた連中を起こします。ここにいられても面倒なんで」
「ああ、おれはシャワー浴びて歯ァ磨いてくるわ」
そしてクールとポールモールがいなくなった。ルーシは脳内で計画を練る。
「クールはやはりたいしたヤツだったな。寒気がするほどだ。だが、アイツを最短で子分にできたのは幸運だった。そしておれの見た目とアイツの見た目的に、親子として充分通じるな。セブン・スターズに2回推挙された男のひとり娘。裏金を得るには12分だ。しかし……」
足りないものもある。そしてそれは、あの自称天使以外では解決できないだろう。
というわけで、ルーシはヘーラーを起こしに行く。
「うわっ、ションベンくせェ!!」
ブラジャーとパンツだけになって、多量のおもらしをしている天使(笑)がいた。顔は幸福そうで、ウイスキーのボトルを抱きしめて離さない天使(笑)がいた。こんな状態になっても襲われた痕跡のないピンク色の髪をした天使(笑)がいた。
「5才児のほうが酒飲んだりしないだけマシだぞ? こんなのに頼る日が来るとは……」
意気消沈とするルーシ。しかし裏金のために4の5のいうことはできない。
とりあえず蹴ってみる。起きない。
耳を引っ張る。起きない。
煙草を腹に押し付けてみる。起きない。
「……☓☓☓に酒入れてやろうか? いや、むしろ喜びはじめそうだな。しゃあねェ」
ルーシはヘーラーの耳元へ近づき、愛くるしい声でいう。
「……ヘーラーお姉ちゃん起きて〜」
刹那、ヘーラーは起きることを思い出したかのように、勢いよく立ち上がり、ルーシへキスをしようとした。
「ルーシちゃぁぁぁぁん!! お目覚めのキスはいかがぁぁぁぁ!?」
「口くせェからしゃべるな。さっさと歯磨きしてこい」いつもどおりのハスキーな声である。
とりあえず顔面を殴られ、
「天使は口臭くないもん……」
とかいい、鼻血を垂らし涙目になりながらヘーラーは洗面所へと向かっていった。
「よォ、たいした演技力だな」
そんな光景を見ていたクールは、ヘラヘラしながらルーシの肩を叩く。
「……ああ、売春婦やっていた時期があるからな。アイツみてーな性欲が男と変わらないアホのニーズへ答えるために、ああいう声の練習を欠かさずにしていたんだ」
実際のところ、前世で男娼をやっていたころの経験談だが、さほど違いはないだろう。
「へっ、やっぱおもしれェよオマエ。オマエみたいのと姉弟になれてよかったぜ」
「そのことなんだが、オマエって歳はいくつだ?」
「32歳だけど?」
「私はおそらく10歳だと思う。だから、22歳離れていることになるな。そこでだ。これから表社会で会うときは、親子ってことにしておこう」
「親子か、悪くねェな。いつか結婚して子どもがほしいと思ってたんだ」
「結婚したことないのか?」
「まあな。女はそこいらにたくさんいるが、ドイツもコイツも結婚生活に耐えられるような人間じゃない。ましてやガキを育てるなんて論外。まあ、こういう生き方を選んだおれのミスだな」
無法者は女をペット程度にしか考えていない。それはルーシも同様である。いつ死ぬかわからない人生を過ごす以上、安らぎを求めて女のもとへ行くことはあっても、所詮ペットは人間に昇格できない。世知辛い話だが、それは割り切るしかないのだ。
「じゃあ、離婚した設定で行こう。まあ、女が蒸発したでも良いが」
「そこまで作り込むのかよ? いったいなんの目的で?」
「裏金ゲットのためだ。オマエはセブン・スターズを2度蹴ったんだろ? だったら父兄としては充分だ。スターリング工業拡張を成し遂げるためにも、資金は必要だしな?」
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