我が盟友、メリット
ルーシ・スターリング最大の危機。
それをあざ笑うかのごとく、天候も悪くなってきた。
されども、ルーシは不気味な笑顔を崩さない。
「悪い天気だ。おれがなにかしようとすれば、いつもお天道様はツバを吹きかけてきやがる」
パーラの暴走。それを止める手立てはひとつしか思いつかない。
それは超能力を使うことだ。
ルーシは前世にて超能力者であった。存在しない現象を引っ張り出し、それを自在に操る怪物だったのだ。
ならば、パーラがもとの状態へ戻るような法則・現象を引っ張り出せば良い。
「まずは干渉からだな」
現在、パーラは魔力をまとっている。触れればシュレッダーのように身体を粉々にするだろう。
そして、さしものルーシも攻撃を受けながら原理を導き出す器用な人間でもない。
「ポールか峰を……。いや、アイツらはクールへ向かわせたな。あのイカれた攻撃を受け止められるヤツらといえば──」
刹那、ルーシのもとに瓦礫が飛んでくる。
しかし、ルーシは一歩も動かない。
その態度に呆れ、それを壊したのはメリットだった。
「よォ。調子は?」
「便秘3日目」
「メントとホープはどこ行きやがった? この忙しいときに」
「さあ。気絶してるんじゃない?」
「情のねェヤツだな。友だちだとは思わねェのかよ?」
「死ななきゃ良いでしょ。で? あれ止める方法考えた?」
「一応は」
「私の役割は?」
「私を守れ。崩すのに時間がいる。私の脳髄が吹き飛んだら、ロスト・エンジェルス本島も吹き飛ぶと思え」
メリットはメガネを外し、ケースのなかにそれをしまい込む。
「3分稼ぐ。カートンね」
「あいよ」
そのままメリットは薄い膜をルーシの正面に貼る。
メリットだって痛いほど理解しているのだ。この場面を切り抜けるには、どうあがいてもルーシが必要であると。
「勇者になったみてーだぜ」
「アンタ、ロスト・エンジェルスの国歌名知ってる?」
「あ? なんだよ藪から棒に」
「『勇者なき平和』って名前。クソガキ、アンタには勇者は似合わないし、そもそも勇者なんて現れちゃならない」
「退屈だねェ……」
メリットが3分間の時間稼ぎを約束し、ルーシはパーラの脳内へ入り込む。
「……だいたい3000億個ってところか」
「バグの数?」
「そうだ」
「3分じゃ保たなそう」
「いや、なんとかして見せる。任せたぞ、盟友」
メリットはぴくりとも笑わない。この無表情も見慣れたものだ。
そんな見慣れた光景を守るため、殺人鬼が勇者になろうとするのだから、現実とは陳腐だ。
「おい、自称天使」
「……なんですか」
ヘーラーは怯えているが、脳くらい動くだろう。
「演算補助しろ。連合軍の最高司令官みてーに梅毒じゃなければ、すこしばかり状況がマシになるはずだ」
「……ルーシさんは本気で勝つつもりですか? こんな状況、神でないと切り抜けられないのに」
「勝つ? 違うな。終わらせるんだよ」




