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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第四幕 共に過ごした時間が、すべて宝物だったと笑えるように
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もう効かねえと壊したブレーキ

ここまで来てしまえば、ルーシ・スターリングは腹をくくるしかない。

 この世界、この国に来てから最大の苦難が始まる。

 まず、ルーシの恋人、獣娘(けものむすめ)のパーラが謎の病気で倒れた。原因はいまだわからず、彼女は苦痛の世界に誘われつつある。

 そしてルーシ所有の無法組織『スターリング工業』への一斉捜査(ガサ入れ)。8000人を数えつつあるスターリング工業だが、その考えは1枚岩ではない。所属者のほとんどが反目組織から吸収した連中だから、これを良い機会だと捉えて大反乱が起こりうる可能性があるのだ。


 そんななか、ルーシは自身のオフィスにこもっていた。


姉弟(きょうだい)、もう一ヶ月は寝てねェんだろ? おれたちに任せて寝たらどうだ?」


 ルーシ最大の盟友、背丈が190センチある巨体のクール・レイノルズは、一ヶ月もの間起きているルーシを素直に心配していた。


「心配無用だ。警察(サツ)と政府を強請(ゆす)れるネタ見つけるまで、私は眠らねェ」

「あの獣娘のことも心配なんだろ? いつもより余裕がねェ」

「……パーラは死なせねェ。私が死んででもだ」

「姉弟が死んだらおれたち寂しいぜ」


 クールはコーヒーをルーシへ差し出す。親分であり義理の娘でもあるルーシの負担をすこしでも減らしたいが、いかんせんクールにその知能はない。ほかの子分に懸けるほかないのだ。


「……そうだ」

「ん?」

「あのアホ天使だ。アイツなら解決できるかもしれねェ。パーラの問題は」


 ここでルーシは因縁深き天使を思い出す。悪臭がひどいので売り飛ばしてしまった天使だ。

 そう思った矢先には、ルーシは飼い主のもとへ電話をかけていた。


「私だ。ルーシだ。ヘーラーは?」

『おかげで大儲けできた。こんなに快楽に弱いヤツ、そうはいねェぜ?』

「役立ってくれてなによりだが、緊急だ。返してもらえるか?」

『えー。まだ慰謝料分稼いでないんだよね~』

「100万メニー投資する。約束違反の賠償金だ」

『おお、さすが!! ヘーラー、オマエもう用済みだ!』

「いまからそっちへ向かう」


 ルーシは電話を切り、近くへいた子分に車を出すよう命じて、彼女の居場所に向かう。


 *


「ルーシさん!! バージニアさんは良い人ですね!! ×××開発がこんなにも気持ちいいとは!!」


 ヘーラー。ピンク髪の天使で、ルーシをロスト・エンジェルスへいざなった張本人である。

 だから因縁深いのだ。しかし、とてもおつむが弱い。性的な快楽には一瞬で負けることに定評がある。


「そりゃ良かった。だが、いまその話はまったく必要ない」


 ルーシはヘーラーの腕を引っ張り、目をじろりと見つめながらいう。


「オマエ、魔力をおれに開発したよな? その逆はできるのか?」

「え? あ、できますけれど。魔力の取り除きですよね?」

「そうだ。こちらは切羽詰まっている。ロスト・エンジェルスへ来てから1番ってくらいにな。分かるか?」

「焦るなんてルーシさんらしくないですよ!! ほら、一緒にSMプレイを──」


 ルーシはシャツとベルトの間から拳銃を取り出し、ヘーラーの頭に向けた。


「遊んでいる暇はねェ」

「相変わらず怖い……。こんな子になってほしくなかったのに……」

「ああ。おれも……私も、お付きの天使の頭ン中がもっとまともだったらって思うぜ?」

「……なら、なにかくださいよ。働いたらなにかを与えるっていったのはルーシさんじゃないですか」


 バージニアの『調教』はとてもうまかったのか、彼女は汚物から程遠い存在になっていた。

 そして、もはや1秒が惜しい。あとから後悔するのならば、いま後悔したほうが良い。


「……添い寝してほしいとか抜かしていたな? わかったよ。1日添い寝してやる」


 ヘーラーの目が星のように輝く。

 昔を思い出すような屈辱を受け入れてでも、パーラを救おうとするルーシの考えは果たして正常なのか。


「もうブレーキは効かねェ。こうなりゃバトルだ。憂いは断っておくに限る」


 しかし、ルーシはそれでも正気であるように振る舞う。


「わかったか? 返答は?」

「ええ、やりますよ!! ルーシさんがそこまでいうのなら、私がなにもしないわけにはいかないでしょう!?」


 添い寝で釣れる天使なんて笑い話にしてもつまらない。

 だが、不条理もまた慣れっこだ。


「よし……行くぞ」


 ルーシはヘーラーの手を握り、ヘーラーの惚けた顔を睨みつけながら、『存在しない現象』を頼りにパーラのもとへ向かう。


 パーラの自宅はMIH学園の直ぐ側にある。通学時間が短くて済むことが良いことだという。

 では、その校舎が10個ほどあるマンモス校が大暴風でも吹き荒れたかのように破壊されていたら、ルーシはどう思うか?


「なんだよこりゃ……」


 答えは脱力だ。

 魔力が荒ぶっている。明確な悪意が暴れ狂っている。

 その中心にいるのは、紛れもないパーラ本人だ。かつて、微量だったはずの魔力が暴発しているのだ。


「る、ルーシさん……。魔力の拒絶反応(・・・・・・・)ですよ? 本来ならば受け入れられない魔力を拾ってしまったがゆえ起こる、暴走状態みたいです……」

「…………まだ負けたわけじゃないんだな?」

「え?」

「まだパーラは救えるんだな?」

「え、あ……魔力を取り除ければ暴走は収まるかと」


 負けず嫌い、ではなく、負けることを想定していない人間がルーシ・スターリングだ。

 こんなときだって、ルーシは冷静なのだ。ヘーラーが最初ルーシの印象としてあげた、『ED患者のように静まり返っている』のだ。


「けれど、そんなことできる人なんていない──」


 ルーシは手を握りしめる。

 そして、邪悪な笑みを見せる。


「──ははッ」


 銀髪碧眼の幼女は、身長150センチの子どもは、その暴風の中心を見据えて、奮い立たせるかのように宣言する。


「できるさ……おれ(・・)を誰だと思っていやがる!! 最強の無法者にできねェことなんてねェ!!」


 最後は自身の矜持にすがるしかない。

 ドラマが動く。その敵役は恋人だ。


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