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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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正午の希望(*)

ランクB:シエスタVSランクA:ホープ


 今大会、別の意味で意味を持つ闘いが始まる。

 シエスタは身体をストレッチさせ、準備ができているようだった。

 ホープは空を仰ぎ、この無神論国家では珍しく十字架を切った。


「神とともにあらんことを。神よ、迷えるワタクを救いたまえ」


 シエスタは返事をしなかった。

 この闘い、当人たちは本気であることを前面に押し出している。本気でやらないのならば意味がないのだ。

 観客席のボルテージはマックス。1年間の間学校へ姿を現さなかった幻のランクAととても希少な電気制御系統のスキルを持つランクBの対峙となれば、ドラマ性も見世物としての迫力も十二分だ。


 所定の位置にふたりが立つ。

 コングが鳴らされた。


 刹那、観客たちは身の毛がよだつような感覚に襲われた。

 これが、ランクAとランクB最高峰。

 蒼い糸のような物質が孤を描いて、採点競技のように美しく飛んでいく。

 電流が発生し、糸を輝かせる。


「……っ」


 先にダメージを食らったのは、ホープのほうだった。

 ひさびさの魔力解放に、電流が感電したことによる肉体へのダメージ。どちらとも些事だが、いまのホープにとっては致命打にもなりかねない。


「それでも……っ」


 ホープは、糸で蜘蛛のようにグラウンドの飾り付けへ張り付く。

 そして、手からその蒼い糸を放射した。


「負けらんないっ!! 負けらんないんだよ、シエスタっ!!」


 シエスタは怪訝に思う。最前の繰り返しではないかと。

 だが、ホープの狙いは油断させることであった。


「うォッ!!?」


 後方不注意。シエスタの足は引っ張られ、地面を這いつくばる羽目になった。

 そのままホープはシエスタを操作で体力切れを起こさせるべく動かし続ける。

 このとき、ふたりに一切の出来心はなかった。ただ、目の前の敵を倒すだけだ。


「さすがはランクAだなッ!!」

「だから言ったでしょ!! うちはランクAなんだから見くびってもらっちゃ困るってね!!」

「でもよォ! オマエはあと何分持つんだ!?」

「……っ!!」

「もともとの魔力がそう多くねェはずだ! こっちはバカだけど、相手の研究くらい怠ってないぜ!?」


 たしかに、こんな攻撃いつまでも続くとは思えない。糸の大群を動かすのだって魔力が必要なのだ。いまはシエスタを思いのまま操れているが、続けられるのは残り1分もない。


「そしておれァ電気だ!! 意味わかるか!!」


 すこし会話し、普段のホープの弱々しい声を聞けずにいたシエスタは、されど彼女の声で致命になる攻撃は起こさないことを決める。


「あと3秒、2、1……」


 その頃、アークは治療を受けながら、勝負の行く末を知る。


「ありがとよ、ホープ。オマエがそんな顔してさ、おれ嬉しいよ」


 シエスタはニコリと笑う。


 刹那、電流がすべての糸に流れ始めた。

 殺傷性はない。ただしその速度はホープが糸を手放す前に全開となる。

 いわばテーザーガンのように、ホープの筋肉が揺れて、彼女はばたりと落ちていった。



 ホープは治療を受けている。さほどダメージは喰らっていない。おそらく、シエスタが加減したのだろう。


「……ルーシ」

「やあ」


 ルーシがホープの隣に座る。シエスタはいまだ姿を現さない。

 紙巻きタバコを咥えるルーシ。その幼女は楽しそうにホープの目を見据える。


「良い勝負だった。ランクAの意地、見せてもらったぜ?」

「昔だったらもっとできたよ。それでもシエスタには勝てなかったと思うけど」


 ホープの表情がどこか清々しい。久しぶりに魔力を解放し、なにか体調が整ったのかもしれない。

 ルーシはそんなホープを見て、満足したようだった。


「ルーシは次、誰と闘うの?」

「事実上、アークだな」

「アーク……」

「知らねェのか?」

「知らない」

「1年と半年くらい学校行っていねェのなら、無理もないな」


 ホープはずっと不登校だった、という。この繊細な少女が耐えきれないほどのなにかがあったのだろう。ルーシはそれを聞こうとはしない。いつか、自分の言葉でシエスタやパーラにでも話すだろう。


「うちね、父ちゃんと母ちゃんが死んじゃったんだ」


 と思っていたが、その考えは外れたようだ。ルーシはさして慌てることもない。


「最近、シエスタから聞いた。この国じゃ珍しい、西方教会を信じる人たちだった」

「だからお祈りしたのか?」

「神様なんて信じがたいけど、父ちゃんと母ちゃんは信じられるからね」


 死んだ者は蘇らない。輪廻転生があるとしても、この世界へは決して戻ってくることはできない。ルーシが21世紀日本へ戻れないように。


「ま、ちょっと憑き物が晴れた顔になってくれて嬉しいよ」

「ありがとう」

「感謝されることを言ったわけじゃないが?」

「パーラちゃんもルーシも感謝しきれないくらいだから。シエスタと同じくらいに」


 純朴な子だ。へそ曲がりな連中とはまるで違う。素直に率直な好意を伝えることがどれほど難しいことか。

 そこにシエスタが現れた。

 彼は開口1番いう。


「ホープ。やっぱりおれ、オマエのこと大好きだよ」


 ホープの顔が真っ赤っ赤になって、ルーシは横を向いてニヤつく。


「最初はさ、同情からオマエを助けたかっただけだった。あんな運命に立たされて、それでも無責任な神がなんもしてくれねェから、人としてオマエを無視するなんてことできなかった」


 シエスタは懺悔するように語っていく。


「でもさ……。やっぱり好きだよ。誰よりも弱いのに、誰よりも強く優しいホープが好きなんだよ」

「シエスタ、コンドームはつけておけよ? いまのホープじゃ赤ちゃんは産めねェだろうからな?」


 ルーシは下品な冗談を言って、ホープが赤面のあまり気絶しないように調整した。


「けッ……。10歳児がいうジョークじゃねェだろ、ルーシ」


「まあな。さて、邪魔者は去ろうかね。角砂糖をそのまま食べるかのような純愛、まさしく青春だ」


 ルーシは去っていった。

 ホープとシエスタはすこし目をあわせ、照れた顔をして、ついにシエスタがホープを抱きしめた。


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