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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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独り立ちを懸けた闘いへ

 ランクB:メントVSランク:Dメリット


「よっしゃぁ!! ライバルの顔面ぶっ壊して勝つぜ!!」

「同感。案外仲良いのかもね。私たち」

「おいおい、気味悪いぞ? あたし、オマエより嫌いなヤツいないくらいだからな?」

「なら一瞬で終わらせてあげる」


 なかなか殺意が煮えている現場だが、勝敗は決まっていた。

 ここで勝とうが負けようが、果たしたい目的もないメント。

 ここで勝たないと、キャメルへのリベンジが果たせないメリット。

 その差は非常に大きい。

 この闘いは、メリットがメントに必殺技を試せるかどうかの試合に過ぎない。


 コングが鳴った。


「よっしゃ、行こうか──!?」


 メントは目をおおきく見開いた。信じがたいものを見てしまったかのように。

 巨大な手だ。悪趣味な色に染まった、腕と手である。

 それは一瞬でメントを食い散らかすように迫り、やがてメントが一切攻撃をできないまま、勝敗を決した。


「る、ルーちゃん……あれ、なに?」


 ルーシは退屈そうな態度で、腕を伸ばしてつぶやく。


「魔力の塊だ。アイツのすくねェ魔力じゃ、あれくらいが限界か」


 もっと大きく、もっと破壊力があるように仕向けたが、この魔術は魔力にかなり依存するため、メリットの魔力では少々扱いが難しい。だから「あれくらい」なのだ。


「ま、メントは死んでいないさ。本当は人ひとりくらい一瞬で殺せる威力はあるんだがな~」


 楽しみがなくなってしまった、という態度でルーシは煙草を吸いに出かけてしまった。


「……ホープちゃん。もしかしてルーちゃんって悪い人なのかな?」

「……気づいてなかったの?」


 恋は人の目を悪くする。それは獣人(けものびと)も例外ではないらしい。


「なんかもうよくわかんない……」


 パーラはそうつぶやく。案外落ち込みやすい子なのかもしれない。ホープは慰めの言葉を考えてみるが、こういう子と関わったことのない、というか他人と関わったことがひさびさな彼女にできることはすくない。


「で、でも。ルーシはすごく悪い人ってわけじゃないよっ!! うちのこと庇ってくれたじゃん!」

「……うん」

「う、うちもあんまり覚えてないけど、シエスタに助けられたからわかるよ! ルーシは悪いところもあるけど、好きな人にはどこまでも優しいって──」

『シエスタくん、ホープさん。準備室へお越しください。まもなく試合開始です』

「……え」


 ホープの顔は真っ青だ。ぱくぱくと口を動かして、なにかを言いたげだが、機械の決定を覆せるわけがない。


「……大丈夫?」


 そして、ここで「ルーシがホープを誘ったからこんな目にあっている」と考えても決して口出しせず、素直にホープの心配をするあたりがパーラの優しさなのだろう。


「…………。わかった。うちが証明してくる。ルーシにもらった機会、活かしてね」


 *


 ルーシはなぜかシエスタについてきていた。


「やべェな、シエスタ。恋人の顔殴りたくねェだろう?」

「棄権するに決まってるだろうが! 誰がホープの顔なんて殴るんだよ!! おれはキャメルのアネキやラークに勝ちてェからこの大会に出たんだ! ホープを殴るためじゃねェ!」


 熱い男だ。ホープが入れ込むのもわかるし、この男がホープへ入れ込むこともよくわかる。


「そうかい。良いヤツだな、オマエ」

「ならオマエはパーラ殴れるのかよ!?」

「殴れるわけねェだろ。私ならパーラを棄権させるね。公然の前で晒したくないからだ」


 その言葉の意味に気がついたのか、シエスタは立ち止まってホープへ電話をかけようとした。

 だが、そのときには小柄で細身の青白い肌をした青髪の少女は、そこに立っていた。


「シエスタ、うち出るよ」

「……え?」

「たまにはうちの実力も見せてあげる。こう見えてもうち、ランクAだよ?」

(おもしれェ。手が震えているのに声はしっかりしている)

「……良いんかよ?」

「試合だからね。殺されないんだったら良いよ。痛い思いするのが当然の場だしね」


「で、でも──「シエスタ、腹積もりを決めろ。ホープはやる気だ。オマエはランクBでてっぺんっていう意地があるだろうが、ホープにもランクAの意地があるんだ。もう巻き戻せねェよ」


「…………わかった。だったら、正々堂々闘おう。オマエに恥かかせるくらいなら、男廃業してやる」


 シエスタは弱気な自分を隠すように、試合場へと向かっていった。


「ルーシ……」


 そこには当然、ただ弱虫で泣き虫な少女いるだけだ。

 ルーシはホープを抱きしめる。


「なにも言うな。オマエらが面倒なヤツらだっていうのは、よく分かっている。だったらぶつけてこい。誰も咎めやしない。いまこの瞬間、あのグラウンドはオマエのためにあるんだ」


 涙を垂らし、鼻水が出ているホープへハンカチを渡し、ルーシは彼女が真の意味で独り立ちする瞬間を眺めるべく、再び観客席へ戻っていった。


 ホープは涙を振り払い、苦しく切ない人生にけじめをつけるべく、深く息を吐いた。


「そうだよ、シエスタ。うちはランクAなんだ。この学校で1番強かった区分にいるんだよ」


 ホープはそう言い、人生を変える闘いに挑んでいくのだった。

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