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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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"ランクD"アーク・ロイヤルVS"ランクA"ラーク(*)

 間違いなく、歴史が変わる。


 それを肌身に感じ取っていたMIH学園の生徒たちは、この状況下でも淡々と試合を続けるランクA・Bの化け物たちに畏怖を覚える。


「アイツら緊張とかしねえのかよ」


 アーク・ロイヤルの隣にいたアロマは、自分とは文字通り格が違う連中に疑念すら抱いていた。


「緊張してるんじゃない? 魔力の流れが悪いもん」

「流れ?」

「魔力は緊張で動脈みたいに動くからね。このなかで緊張してないのって、キャメルとシエスタくん、ラークさんくらいじゃない?」

「あのクソガキは?」ルーシのことだろう。

「ルーシはそもそも魔力をあんまり感じ取れない。魔力でスキルを使ってないみたいだ」

「じゃあ緊張してねえと?」

「勝とうが負けようが結果は同じ人が、はたして緊張するものか」

「そういわれるとしなさそうだな」


 MIH学園に激震が走っていた。ルーシとその仲間たちは、いまやMIHに属すほとんどの生徒から悪役として扱われている。ついこないだまで注目を浴びることもなかったであろう……いや、悪い意味での目線しか送られてこなかったメリットやメントも、こうなってしまえば立派なヒール役である。


「メントとかメリットってヤツらもルーシの子分なんだろ? かわいそうだな、アイツら」

「そうかな? プレッシャーは必ずしも結果に反映される、とも限らないんじゃない?」

「と、いうと?」

「メリットさんは良いところまで行けると思う。さっきの勝ち抜き戦見る限りね。それに、キャメルとの因縁もある」

「ああ、去年あのちびっこに負けたんだったな。アイツは」

「キャメルは嫌われ者だけど、今回は珍しくあの子に非はない。ランクDをランクAが破るなんて、当然のことだからね。でもメリットさんは納得してないみたいだし、次は盛り上がるかも」

「とか言ってる間にオマエの番だぞ。健闘、祈ってるぜ」

「うん」


 アークは耐久性の高い白いシャツに黒のパンツを履いている。一応、MIHの制服とは違うものだが、傍から見てそれを判別できるのかは不明だ。


 ランクA:ラークVSランクD:アーク・ロイヤル


 最前、緊張してなさそうな人間に挙げた人物だ。実際、あくびまでして、とことんやる気がないように見える。


「やぁ、はじめまして」

「はじめまして~」

「落ちこぼれだと見くびらないんだ」


 されど目つきは狩人のそれである。


「まーね。勝ち抜き戦見てたら、正直他の有象無象(うぞうむぞう)とはレベチだなって思った」


 ラーク。透明的な赤い髪の毛をセミロングに伸ばしていて、妖精のように顔立ちは整っている。身長は160センチ前半しかないアークよりも二周りちいさく、どこか気の抜けた話し方をする。


「ま、御託はあとでも良いじゃん。喧嘩、はじめよっか」

「そうだね。学校が喧嘩して良いなんていってるんだから、どうかしてるとは思うけど」

「またまた~。ランクS、狙ってるんでしょ?」

「もちろん」断言した。

「素直な子だね。ま、ひねくれてるヤツよりよっぽどマシだよ」

「ひねくれるほど能がないもんで」

「それはいったい誰にいってるんだか……。どこまでも素直な子だ」


 開始のコング。


 勝負がはじまった。勝敗予想は9割9分がラークへ向いている。

 だが、こういう場面で勝利とか敗北を予測するのは極めて難しい。その予測が不安定で信用ならないのは、このふたりが苦しいほどわかっているのだ。


「……」

「攻撃しないの~?」

「煽っても効かないよ。先手を取ることが必ずしもすべてじゃないからね」

「そりゃそうだね~。ならもらおうかな」


 足をバネにして、爆発的な速度でラークはアークへ詰め寄る。

 アークは慌てず、「魔力の流れ」を推測する。


(単純に殴ってくるだけ?)


 ならば避けることもカウンターを入れることも容易だ。いったいなにを考えているのだろうか。

 そういえば、この少女、転校してきたばかりでスキルの情報がまだ出回っていない。

 つまり、速攻で終わらせようという魂胆だ。

 ならば、時短を行えないようにすれば良い。


「──ッ!?」


 アークの頭に衝撃が走る。間違いなく、ラークの攻撃だ。


(どうやって殴ったッ!? 確かに避けたはずだぞッ!?)

「避けた、避けられたとかさ……あんまり関係ないんだよね。たとえばさ、自動(じどう)追尾(ついび)するミサイルを交わす方法ってあると思う?」


 アークは膝を崩しかけるが、その体制を気合いで立て直し、一旦地面を蹴って空中に跳ねた。

 だが、ラークもまた邪気の混じった笑顔をこぼして、アークを追いかける。


「私はないと思う。だって勝手に追いかけてくるんだもん。ストーカーは怖いよね。その自覚がないのに、人を傷つける。さて、ヒントはここまでだよ~ん」


 アークは腕に魔力をまとう。そして相手の魔力の流れを追う。冷静に、的確に。


(こんなのっておかしいよッ!? こんなに最適化されてるのッ!? 漬け込めるところ、ほとんどないじゃん……)

「これがランクA……」


 寸のところでアークはラークの攻撃パターンを知り、なんとかその方向に盾代わりの腕を置く。

 まともに触れていれば、腕が木っ端微塵になっていた。そんな凶悪な攻撃であった。


「随分落ち着いてるじゃん。普通だったら懇願(こんがん)するころだけどね?」

「……懇願したところで無駄なヤツらにいじめられたもので」

「いじめられっ子が成り上がる……。んー、物語としては月並みだね。小学生でも思いつきそう」

「現実のほうがドラマチックなものさ。たぶんね」

「それもそうだね」


 この間、アークは防戦(ぼうせん)一方(いっぽう)だった。魔力の流れに気が向きすぎているのだ。ラークの攻撃に合わせて防御を取る。

 これでは勝てない。しかし、別格な魔術師とまともに闘ったのが人生初の人間に、勝ち方を教える方法は限られている。誰も彼も、アークを助けられない。


「……いや」


 それでも、アーク・ロイヤルは世界でも屈指の学習できる魔術師である。それが無力と知れば、また別の方法を一瞬で試すことのできる存在だ。


「ドラマチックなのは、人間の思い込みかもしれない」

「あー、そっちのほうが近い気する~」


 ラークは蹴り技でアークのみぞおちを蹴ろうとする。

 しかし、アークはそれを交わす。交わして、彼女の足を掴む。


「足フェチ?」

「悪いけど、女子にはあんまり興味ないんだ」

「ゲイ的な?」

「女性関係で苦労してきたから。これでもね」

「なんのことやら──」


 結局、アークは女子に振り回される運命なのかもしれない。関わってきた女子たちがことごとく狂っていたから、いまのアークが生まれたのだろう。


 刹那、アークはラークを地面へ叩きつけた。


「思い込みはドラマチックだ。ぼくは自分の性愛にずっと悩んできた。魔術にも悩んできた。でもそんなものは、思い込みにしか過ぎないんだ」


 それを見ていたルーシは、ニヤリと口角を上げる。


「積木くずし、完成だな? 相手の魔力の流れを崩す。相手が魔力を使っていれば使っているほど、効果は強い。どうなるかはオマエの考え方次第みてーだが」


 土埃(つちぼこり)からラークは立ち上がれなかった。痛みはないのに身体は動かない。不思議な感覚だった。


「……こりゃ、キャメルちゃん勝てないな」


 カウントが取られ、ラークの敗北が決まった。

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