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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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超能力と魔術の融合

 演台に演者が登る。勝負がはじまるのだ。最初から勝敗が決している、一種の八百長のような試合が。


「よォ」


「……てめェがルーシか。よくもウィンストンさんをやってくれたな」

「やられるほうが悪いんだよ。ま、私の女に手ェ出したらどうなるかって見せしめだ」

「気持ちワリィな、クソビアンが」

「吠えられるうちに吠えとけ」


 ルーシは腕時計らしきものを確認する。秒針は一二を指している。これがゼロになった瞬間、ルーシは事実上行動ができなくなる。だから、ある程度戦略を立てていかなければならない。

 とはいえ、あまり本気を出す相手でもないのも事実である。


「……行くぞ」


 刹那、ルーシはキャビンの声に呼応するかのように、銀鷲の翼を展開した。

 破壊力は凄まじい。現在のサイズは身長よりやや高い程度だが、それでも充分に相手を打ちのめせる。

 ……はずだった。


「……ッ!?」

(翼がかき消されたッ!? まさか、コイツッ!?)


 魔力によって発現しているこの翼には、ひとつ致命的な弱点があった。それは()()()()()()()()()()()()()になってしまうことだ。ルーシはあくまでも超能力者だが、この翼が発動している限り、魔力もまた働いてしまうのだ。

 魔力によって発現。それはつまり──。


「……効いたかメスガキ」

「効いたな、クソ野郎」

(翼が私自身と連動している。翼が攻撃を食らえば私へもダメージがいく。超能力と魔術を混ぜている以上、なにが起きても不思議じゃない。最悪だな、こりゃ……)


 失態であった。ルーシはこの状態になってから、一度も戦闘をしていないのだ。クールあたりと練習しておくことで、この状況はいくらでも避けられたはずなのに、ルーシはそれを怠っていたのだ。


「そして……おれにもスキルはあるぞ?」


 地面が振動する。なにかが生えてくる。

 触手だ。先端に口がついている。このままでは、翼で防御もできない。もがれておしまいだ。

 ならば攻撃に出るしかない。本当は攻撃のほうが魔力を消耗するため、こんな小物相手に使いたくはないが、手段を選んでいる余裕はない。


 だが、相手は、いや、ルーシ自身はまったく気がついていなかった。ルーシの持つ超能力が変貌していることに。


(翼が反応しねェッ!?)


 ルーシは翼をもって相手本体を倒そうとした。だが、それは失敗に終わった。


「悪魔の片鱗、を知ってるか!? クソガキィ!!」


 触手がルーシに迫るなか、キャビンもまたルーシとの距離を狭めていた。


「悪魔の片鱗!? そりゃ随分と、御大層な名前なもので……!!」

「実際、悪魔みたいなもんさ!! 魔力を身体にまとうんだからな!!」

「なるほど! 魔力で攻撃を防御しているわけだ!!」

「そういう……こったッ!!」


 ルーシの顔に拳がめり込む。こんな痛みを感じるのはいつぶりだ? クールとの喧嘩ですら、ここまで痛みはなかった。こんな激痛、前世まで遡るのではないだろうか。いや、身体そのものがちいさくなっているいま、おそらく前世でも感じたことはないはずだ。


「……いってェな!! クソ野郎!!」


 もはや手段を選んでいられない。出し惜しみはなしだ。

 刹那、ルーシの背中に黒鷲の翼が発現した。


 数多の敵を沈めてきた、必勝の翼。だが、使える時間は非常に限られる。時間にして5秒も使いたくない。なので、ルーシは一瞬で翼を縮めて発射した。


「てめ──ッ!?」


 こうなると話はかんたんだ。あとは相手を殺さない程度に調整すれば良いのだ。()()()()()()()を打ち破れるほど彼は強くないのだから。


「はあ、はあ……」


 たしかに勝った。されど、消耗が激しいのも事実だった。こんな息切れを起こすのはとてもめずらしいことだからだ。吐血しそうなほど、ルーシは消耗していた。


「あばよ……哀れな亡霊」


 第1回戦第1試合は、「ランクS」ルーシ・レイノルズの勝利で終わった。


 *


 ルーシはまっすぐパーラたちのいる観客席へは向かわず、電話でクールを呼んで学校の裏側で煙草を吸っていた。


「どうしたよ、姉弟」

「……悪魔の片鱗ってヤツを教えてくれ」

「あー、さっきやばかったもんな?」

「ここまで劣化しているとは思ってもなかった。色々と侮りすぎたな……」


 息切れは収まり、しかし憔悴(しょうすい)した顔でルーシはクールの目を見る。


「ま、姉弟だから特別に教えちゃる。良いか? 人間は身体に魔力をまとっているんだ。無自覚のうちにな。それを自覚して振るうと、片鱗が完成する。姉弟の魔力は、おれやポーちゃん、アークとかのキメラだから、余計に纏わり付かれてる感じはあるはずだ」

「ああ、まあな……」


 そもそもルーシはこの世界の住民ではないため、魔力が身体を漂っている感覚などわかるわけもないが、ここで「悪魔の片鱗」とやらを理解しておかないと、最前のような苦戦が続いた挙げ句倒れる羽目になる。


「それをまとめるんだ。ぶっちゃけ感覚的な話だから、使えるかどうかはわかんねェけど」

「……試してみようか」


 目をつむり、ルーシは血液の流れを一点に集めるかのごとく、魔力を集めはじめる。

 すこしずつ、その感覚とやらがわかってきた。ルーシは試しに超能力を発動させずに壁を殴ってみる。


「おお、修理費が大変そうだ」


 壁に穴が空いた。一点に集められた、銃弾で開けられたような穴が数十個生まれたのだ。


「つか、なんでおれ呼んだ? 姉弟すぐに使えるようになったじゃん。アークもそうだったらしいけど」

「……へッ。アイツは私が能力を与えたからな」

「器用だねェ。さて、一応説明しておくぞ? 魔力をまとってることを自覚すれば、3つの効果が生まれる。魔力の探知と無効化、そして攻撃。探知はそのまんまだ。おれの魔力、わかるだろ?」

「ああ、ヤク中みてェで素敵だぜ?」


「クスリは売るものだろ……」クールは苦笑いを浮かべ、「あと無効化だな。数字でもありゃわかりやすいんだけど、要するに一定以下の攻撃は受けないってことだ。当人の魔力次第ではあるけど」


「原理は?」

「おれもよくわからん。ポーちゃんなら知ってるかも。アイツは魔術に詳しいんだ。ま……」


 ルーシとクールは拳をあわせる。


「とりあえず、1回戦勝ち抜きおめでとう」

「ああ」


 ふたりの姉弟はささやかに祝う。

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