貧乳たちが彼氏を作ろうとするようです
ルーシ、パーラ、メリット、メントがそろう。ろくでもない集まりである。
最低最悪の無法者、獣娘のレズビアン、変わり者を装っているつもりの変人、胸がおおきい女子生徒を睨み殺そうとする少女。
「ひさびさにそろったような気がするが、私ら別に仲良し小好しのお友だちってわけじゃないんだよな」
「右に同感」
「パーラがいなきゃ誰がオマエらと仲良くするんだ?」
「みんなー……仲良くしようよー……」
パーラだけがこの4人が友だちであってほしいようだ。しかしよくよく考えてみると、パーラとメントはもとから友だちで、ルーシとパーラは付き合っている。たったそれだけの関係。ルーシとメント、メントとメリットは別に互いを友だちだと思っていない。しかも後者に至っては、こんなにも気が合わないヤツも珍しいとすら感じている。
「だいたい、仲良くするっていっても、なにをするんだい?」
「酒と煙草」
「貧乳改善」
「オマエら、自分らが女子高生だって思っていねェだろ? なら、ここは1番女子高生らしいパーラに託そうか」
責任はよりにもよってパーラに投げられた。
メントとルーシはパーラと遊ぶことを嫌わないが、メリットは違う。彼女はルーシに旧魔術を教えるという役割を果たしたため、正直いてもいなくても関係ないかもしれない、という目でふたりはメリットを見ていた。
「……んー、お酒と煙草吸いながら互いのおっぱいもみ合う? もうなにを呼び出そうとしてるのかわかんないけど」
「仕方ねえだろパーラ。共通の趣味がないんだよ、あたしら」
「じゃ、じゃあ、全員趣味挙げてって! 私はゲームとアニメ!」
「ルーシ文学と歴史研究、ギャンブルと女遊びくらいかね」
10歳の幼女は、もはや自分が10歳である設定を忘れているようなことを言い放った。
「魔術研究に音楽。あと寝ること」
あえてとっつきにくいようにいっているのだろう。でなければ、相当な変わり者だ。いや、変わり者なのは知っていたが、ここまで変人だとさっぱりである。
「やっぱ運動かな。次に歌うのも好きだ。パーラ、悪いけどあたし、ゲームとアニメはさっぱりなんだよ」
1番常識的だが、1番遠いような気がする。
「んじゃ、じゃんけんで勝ったヤツの趣味やってみようぜ。もしかしたら気にいるかもしれねェし」
呆然とするしかないパーラに代わり、ルーシが比較的まともな提案をしてきた。
4人はじゃんけんをした。
*
「ギャンブルか。そうだな……。16歳か17歳でも入れる賭場あるかね」
ルーシが勝った。文学と歴史研究は勉強的な意味合いもあり、女遊びは同性愛者でないふたりには受け入れられないので。高校2年生の少女たちはギャンブルをすることになった。
「というか、オマエら手持ちいくら?」
「500メニー」
「400メニーだな」
「300メニーだよー!」
「少ねェな……。いや、高校生だと思えば多いか」
この額ではたいした遊びはできない。
仕方ないのでルーシはキャッシュカードを取り出し、
「ひとり50000メニーは持っていねェとな? 緊張感つけるために、所持金ゼロメニーになったら罰ゲームだ」
20万メニーもの大金を用意することにした。
「え、ルーちゃん……罰ゲームって?」
「オマエはやらなくて良いよ。あ、そうだ。良い遊び思いついた」
「……誰を殺す気?」メリットは怪訝な顔になる。
「右に同感だ」
「おいおい、パーラの前でそんなこというなよ。オマエら、彼氏ほしい?」
メントの目つきが変わった。目の色すら変わったような錯覚に襲われるほどだった。
「ほしいほしい超ほしい‼」
「んじゃ参加決定な。メリットは?」
「……いらないけど」
「んじゃ参加決定だ」
「は?」
一切の間髪をいれず、
「ルールは簡単。期限は壮麗祭が終わるまで。資金は50000メニー。それを元にMIH学園内でひたすらナンパしても良いし、あるいはマッチングアプリを使っても良い。要するに、金で釣っても自力で作っても自由。それで、彼氏ができたほうの勝ち。負けたほうは……私の叔母であるキャメル大好きゴスロリファッションで一週間生活。わかったかい?」
それが決定事項であるように語る。
「いや、納得できるわけない──」
「乗ったぜ‼ 50000メニーあれば化粧品買い漁れるし、肌もめちゃくちゃキレイにできるし、服もいっぱい買える‼ あたしをただの貧乳だとなめるなよぉ‼」
「……脳内男しかないの?」愚かな生物を見るような目だ。
「まあ、私とパーラはもうすでにカップルなので参加できねェしな。あーあ、残念だなー」
「る、ルーちゃん……。罰ゲームめっちゃ重くね?」
「その文句は叔母にいってくれ。定期的に呼び出されて向かうと、ふたりでゴスロリ着て写真撮影させられるんだぞ? 魂の殺人だ、ありゃ」
やはり高校生にもなってゴスロリはイタイらしい。パーラのようなオタク趣味のある子がすこし引いているのを見て、ルーシは確信を強める。
「キャッシュレスの時代だし携帯に50000メニー送っておくよ。引き下ろすのもちょっと面倒くせェしな」
「私、やるって一言もいってない」
「恋人は良いぞ? 最初は不思議なものだ。男はどこへ挿れるのかわからず右往左往し、女はそんな男に呆れ、血が出てきたころには叫んで懇願するが、男も焦っている以上止めることができない。間抜けだが、それもまた青春だろ? まあ、男との経験があるんなら、まさか日和るとは思わないぞ?」
「……あるし。処女じゃないし。この歳で処女とか、マジありえないし」
童貞のようなうろたえ方である。たぶん、痛すぎて相手を魔術でふっとばしたとか、そういう苦い経験があったのだろう。
「それじゃま、皆さんのご健闘をお祈りします。壮麗祭終了後にお二方の彼氏となった男へ私が直接聞くので、くれぐれも嘘はつかないように」
どうしてこんなにも簡単に口車に乗せられてしまうのだろうか。パーラはちょっとだけふたりが子どもに見えた。
「んじゃ、よーい、スタート‼」
彼女たちは一斉にスタートを切った。
「ッたく、アホなガキどもだ」
「ルーちゃんはいったいなにがしたいの?」怪訝しかない顔色だ。
「そりゃもちろん、愛と平和を守る守護神になるための修行さ」
「ものすごい嘘をつかれてる気がするけど、気にしないでおく! ひさびさにふたりっきりだね!」
「ああ。たいして時間経っていねェが、ひさびさな気もする。壮麗祭の出し物回って楽しむか」
「うん!」
あのふたりは大切な友だちだが、ルーシはそれをも上回る恋人だ。だから、パーラは耳を立たせて楽しげにMIH学園をふたりで歩いていく。
「いろんな連中が集まっているな」
「ね! なんかね、壮麗祭があるときはMIHが一般開放されるんだって!!」
「お祭りってわけだ。さて……。色々買うか。オマエ、人見知りなんだろ? だったら適当なところで座って話していようぜ」
「よく覚えてたね! さすがルーちゃん!」
「忘れるほうがどうかしている」
本音をいえば、10歳の銀髪碧眼幼女の姿で堂々と煙草を咥えている姿を見られるのは、他の学生たちの教育によろしくないというものだ。
また、恋人の性格くらい把握しておくべきだろう。人殺しにも妙な倫理観や常識はある。
「……あ?」
「ん?」
「いや、あれ見てみろよ。酒見てフラッシュバック起こしたみてェに顔が真っ青になっているヤツがいる」




