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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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不気味な愛情(*)

 MIH学園の最高峰といえば、ランクS……ではなくランクAだ。一説によれば、ランクSの意味は「ランク・セブン・スターズ」で、ランクAは「ランク・アマチュア」というらしい。

 そんなアマチュアが主席の座へついていることを気に食わない人間は多い。なので、キャメルは、当人の性格も相まって、極端に好かれるか嫌われるかのどちらかだ。


 では、キャメルのことをもっとも好んでいる者とは誰だろうか。


「やあ。不気味なピアニッシモちゃんが来たよ」


 そのころには、キャメルとシエスタの強化演習は終わっていた。どうやら引き分けたらしい。両者とも本番まで切り札はとっておきたいのだろう。

 その隣には、なんとも因縁深い子がいた。ホープだ。シエスタにせがまれてピアニッシモは彼女の精神状態を書き取ったデータを渡したのだ。


「おお、ピアニッシモ先輩!! この前はありがとな!!」

「相変わらず美人なのに辛気臭いですね、ピアニッシモちゃん」

「ああ、目立っても困るもので」

「ならその胸分けてくださいよ。高校生でそのおおきさは反則技でしょ」

「それはできないな。悪いけど」

「先輩って何カップ?」シエスタが訊いてくる。

「たぶんFカップくらいだろうな。重いし、腹が見えないし、肩こるし……良いことないぞ?」

「それでも良いからほしい……。ムチムチボディほしい……」


「キミはいつも脳内が男だらけだね。彼のことはもう諦めなさい」


 ピアニッシモは「精神操作」の魔術師だ。運動不足も関係しているだろうが、肉付きがとても良い。それでいて太っているわけでもない。

 さらにいえば、とても怠惰な人間だ。髪はボサボサだし、いまだって服装はジャージだ。しかも中学時代のもの。胸元がだいぶ辛そうだが、ピアニッシモはたいした問題とはとらえていないようだ。


「てか、先輩。風呂入ったの、いつ?」

「女性にたいして失礼だとは思わんかね?」

「いや、若干臭うから……」

「キャメル、風呂貸してくれ。なんなら一緒に入ろう。シエスタと……ホープくん、キミも来るかい?」


 青い髪色をしていて、しっかり髪質と肌にうるおいがあり、長めのボブヘアをした少女ホープは、露骨なまでに怪訝そうな顔になった。


「えー、アネキと先輩の身体見たって仕方ねェじゃん。ちびでガリガリと散々見てきた身体見たって意味ないっしょ」


 シエスタはひっそりとホープをかばった。可愛げのある少年である。


「ほんと、キミはかわいいな」不気味な笑みだ。

「野郎がかわいいっていわれて嬉しいと思うんすか? ほら。ホープ、おれたちは帰ろう。結構くたびれただろ?」

「う、うん……」


 シエスタとホープは去っていった。

 場にはピアニッシモとキャメルが残される。

 ふたりは先輩・後輩の関係だが、仲は良好だ。もしかしたらキャメルの1番の親友はピアニッシモなのかもしれない。


「キャメルちゃん。調子はどうだい?」

「精神覗いてる人の言草(いいぐさ)とは思えませんね。良いわけないでしょうが」

「いい加減アークくんのことは諦めろ」

「女として引き下がれません」

「ならば追え」

「……結局、なにが言いたいんですか?」


「そうだな」ピアニッシモはキャメルの肩を叩き、「ぬるい手を使うなということだ。いっそのこと拉致監禁してしまえば良いだろう? 私がアークくんの親の精神を操作したって良い」


 キャメルは、その選択に魅力を感じているようだった。これでは犯罪者と変わりがない。


 ピアニッシモはすこし引き笑いをし、

「……なんてな。それでは犯罪だ」

 冗談だということにした。


 他人の色恋沙汰を観察するのが楽しくて仕方ないピアニッシモは、あながち冗談でそういう提案をしたわけではない。キャメルがアークを拉致してどんな倒錯をするのかを観察してみたいのも事実だった。当然ジョークの意味合いのほうが圧倒的に多いが。

 しかし、いまのアークならば、キャメルの思い通りにはできない。彼は実力者となったからだ。


「まあ……こういうのはどうだい? 壮麗祭で決めるというのは」

「壮麗祭で決める?」

「ああ。勝ったほうが飼うんだ。なにしても良いんだぞ? キミはごく一部の人間にしか心を開かないが、その分一度明かした相手には素直そのものだ。これに男女の関係が加わるとどうなるだろうな?」


 そういい、ピアニッシモはどこからか用意したアークの連絡先を使い、電話をかける。


『どなたですか?』

「不気味で辛気臭いキミの先輩だ」

『……キャメル、替わって』


 即座に理由を理解したらしい。ピアニッシモはキャメルへ携帯を渡す。


「ね、ねえ……えーと……あー……」

『悪いけど、キャメルの望みは叶えられないよ』

「……さあ、なんのことかしら?」

『アロマにいわれたんだ。あんな女に人生狂わせられる後輩見たくないって。だからキャメルがしつこく絡んでくるようなら、私がオマエと付き合ってやるって』

「…………!! あの女狐!!」怒号だった。

『だってぼくキャメルのこと恋愛対象として見られないもん。赤ちゃんのときから一緒にいる子がさ、急に迫ってくるなんて嫌だよ。よくテディベアに男性器が生えてきたって女の子が言うじゃん。いま、そんな感じ』


 ここまで明確かつなんの救いもない拒絶をされれば、キャメルというプライドの高い人間はどんな反応を示すだろうか。

 ちなみにピアニッシモは一切精神操作をしていない。というか、精神操作をできない。魔力を常に身体にまとって、ピアニッシモによる干渉がブロックされているのだ。


「……分かったわ」

『なにを?』

「愛の反対は憎しみであることを教えてあげる。私を裏切った制裁として、アナタは一生もののトラウマを味わうことになる」


 宣戦布告書でも渡すかのような口調であった。


『ふーん』


 渡された側にはまったく緊張感がない。むしろこうなることは決まっていたかのような、そんな態度だった。


『とにかく、ぼくキャメルと話すことないから切るよ? あ、そうだ。アロマに手出したら……わかってるよね?』


 大胆かつ強気。これではまるでクールのようだ。愛して止まない、兄のように。

 ……と、キャメルが考えているのをチラリと拝見したピアニッシモは、ニヤニヤと笑いながらキャメルを置いてシャワールームへと向かっていくのだった。


「……やっぱりアナタはお兄様のような存在よ。アーク」


 電話を切られたあと、キャメルはいびつな笑顔を浮かべて、手に炎を起こし、音速にも近い速度でそれを壁に撃ち放った。

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