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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第三幕 すべての陰謀を終わらせる陰謀、壮麗祭
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悪魔の片鱗

 健常?

 いや、おかしいとは思っていた。ルーシがなぜ入院しているのか。毎日のようにこの病室へ来るため感覚が麻痺していたが、この少女は入院とはもっとも無縁な存在であるはずだ。その少女が頭に包帯を巻いていて、愛煙家なのに煙草も吸えないと嘆いていることに、アークはすこしたりとも疑念を抱いていなかったのだ。


「ルーシ……。キミにいったいなにがあったの──」


 そのときには、ルーシはアークをだきまくらのようにして、眠りはじめていた。


「……やっぱりなにかあったんだ。というか、なんでこんな力強いの? そんなにボクをロリコンにしたい? ……あぁ、もう良いや。もう良い。時間だから寝ちゃお」


 眠くなると行動の幅が狭まるのは当然の話である。アークはそのまま寝てしまった。


 *


「──あー、よく寝た。あれ? まだ起きてない。ナースコールしたほうが良いのかな?」


 こんな不安定な体勢で熟睡できたアークもアークかもしれないが、上に乗っかっているルーシのほうが眠りづらいのも事実である。だが、少女は頑なに起きようとしない。


「……あ。手が」


 そもそも、アークの腕は動かない。あれだけの攻撃を喰らったのだから、二~三週間は入院している必要があるといわれたほどだ。


「誰かに来てもらわないと……。でも、面会に来たのが親と友だち、アロマ、あとメントさん。誰に見られても勘違いしかされない状況だよね……。これが詰みってヤツ? このまま逮捕まで待つだけじゃん……」


 そうやって自分の不運を嘆いていると、個人用病室のドアが開いた。

 回診だろう。見舞いに来た人たちも、最初に病院が知らせてきたし、だいたいここへ入るには関係者でないと不可能だ。


「……先生、ルーシをもとの病室へ──えッ!?」


 アーク・ロイヤルの顔はあっけにとられたような、いや、表情筋すら動かすのは難しいのだが、それでも驚いていることが伝わるような顔になった。

「おっす。ひさびさじゃん? えーと……」

「アークくんでしょ、アニキ」

「おお、そうだった。アークだアーク。オレのこと覚えてる?」


 両者とも派手なスーツを着ている。赤のスリーピーススーツと、つやのあるグレーのダブルスーツ。

 そして身長も両者ともに高い。片方は一九〇センチ超えで、その隣にいる者も一八五センチを超えているだろう。身体つきもがっしりしていて、マフィアといわれても驚きはない。

 さらにいえば男前だ。顔つきは若々しく、それでいて渋みがある。


「おいおい、ウチのルーシなにやってるの?」

「魔力切れでしょう。人前で眠ることを恐れてる人間が、誰かにしがみついて眠ることなんてありえない。アニキ、じゃんけんで決めましょう」

「えー! あれ結構きつくね? ここはやっぱ座布団が下のヤツが渡すべきだと思うけどなァ?」

「ルーシ蘇生に使った金、アニキが負担するって啖呵切ったじゃないですか。でも、アニキに金作る力なんてないでしょう? 結局オレらが金運んでこないといけないんだから、すこしは部下を思いやってくださいよ」

「そんなこというなよー。間違っちゃいねェけどさー。んじゃ、今回もオレが魔力渡すよ」

「……あのー」

「おお、オレの名前思い出した? すげェじゃん。オレなんてポーちゃんの名前も覚えてねェのに」


 ことし、アークたちの住む国「ロスト・エンジェルス連邦共和国」は、連邦公式放送及び連邦機関紙にてロスト・エンジェルス史上もっとも優れた魔術師10選を発表した。その最上位に掲載されていたのは、目の前にいる大柄な男クール・レイノルズである。


「クールくん……。何年ぶりでしょうね」


「忘れた」あっさりと、「でも、年月は重要じゃないんだよ。キャメルとは仲良くしてるか? 懐かしいなァ。おまえらがガキのころ、親同士が仲良いってのもあってよく遊んでたもんな」


「……キャメルとは」

「ああ、アイツちょっと面倒なところあるからな」分かりきっているような口調だった。

「アニキの妹さん、アニキの妹らしい子でしたね」

「おいおい! オレが面倒なヤツみたいじゃねェか!」クールは豪快に笑う。


 そんななか、隣にいた男は表情を変えずアークの目を見据える。


「では、はじめまして。アークくん。ポールモールという者だ」

「はじめまして。アーク・ロイヤルです。あの、まずルーシを離していただけませんか?」

「おお、確かにこれじゃロリコンだ。ポーちゃん、きょうだ……ルーシをソファーにでも寝かせてやれ」

「御意」


 ようやくルーシから解放された。アークはどこか一息つく。


「それでな、アーク。きょうおまえのところへ来たのは、別にキャメルが絡んでるわけじゃねェんだ。アイツとの関係はふたりで決めりゃ良いと思ってるからよ。単刀直入にいおう。ルーシの介護してくれねェか?」


 アークは言葉の真意がわからず、回らない首を全力で動かそうとしたほどだった。


「いや、そんなに深刻な話しでもねェぞ? 目が見えないとか、手足が動かないとかじゃないんだ。基本的にいまのルーシは健常者と変わらねェと思って良い。でも、唯一困ってることがある。ポーちゃん」


 ポールモールはタブレットを渡してきた。そこには、物騒な内容が記されていた。


「人間疲れたら寝るよな? それはルーシも一緒だ。けど、ルーシは()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()な」


 クールはポールモールへ目を向けた。


「その条件、ものの見事にキミの力と一致してるんだ。しつこく魔力を分けろっていってきただろ? その答えがこれだ。いまのヤツは、魔力がないとなにもできない」


 ルーシの左腕に巻きつけられているものが書いてあった。それは腕時計のようなものだ。ただし普通の腕時計とは存在意義が違う。それは時間を確認するものではあるが、同時に自分の寿命を知らせるものなのだ。

 針がゼロを指した途端、ルーシは身体を動かせなくなる。いや、昏睡状態になるといったほうが正しいのだろうか。


「そこで学校にルーシがいる際、どうしてもルーシを補佐するヤツがいないといけねェんだ。オレやポーちゃんは高校生っていうには、あまりにも老け込んでるしな?」半笑いを浮かべる。

「……ほかの人じゃだめなんですか? キャメルとか適任だと思いますけど」

「アイツはだめだ」一言で断ち切り、「魔力の清らかさはあるんだけど、量は多くない。その点、おまえはキャメルほど清らかじゃないけど、とんでもねェ量の魔力を持ってる。ポーちゃんの試算によると……えーと……」

「キャメルさんの通常攻撃をアークくんはだいたい2京回(・・・)撃てますね」


 2京回? 天文学の話しでもしているのか?


「あ、そうだそうだ。2京回だ。意味分かんねェ数字だろ? 実際オレも意味分かんねェ」

「……とてもそうとは思えませんけど」

「おいおい、良い若けェ者が謙遜すんな。おまえが自分の実力信じられねェのは当たり前なんだよ」


 クール・レイノルズはアークの頭を撫でる。


「この国でもっとも偉大な魔術師を信じりゃ良いんだよ。もちろん、タダでとはいわない。おまえは昔から金へも女へも関心なさそうだったし、ここはやっぱ単純に強くなる方法教えてやる。ポーちゃん」


 その瞬間、ポールモールはサプレッサー付きの拳銃でクールを撃った。

 されど、クールはそれがわかりきっていたかのように、弾が絶対に当たらない位置へ頭をずらした。


「テンポよく行こうぜ」


 次、ポールモールは右手になにかの魔術による光を発生させ、クールへなんの遠慮もなく当てた。

 だが、その攻撃はクールに当たる直前ではたき落とされるように消え去った。


「最後だ。あんま本気でやると親父がキレるから、ほどほどにな」

「了解です」


 ポールモールとクールの拳がぶつかった。なにか天地が割れるような、凄まじい波動が走った。

 それに従い、整頓されていた病室は台風でも過ぎたあとのようにめちゃくちゃになった。


「やりすぎるなっていったのによォ~。また金借りるのか……」

「これくらいしないと、アークくんに真意は伝わらないでしょう」


 アークは、はっきりと確信する。これは魔術ではない。魔術のさらに上の領域だ。戦慄するほかない。

 それに比べ、ふたりのなんと間の抜けた会話か。このふたりは、この人智を超えた力を平然と操っているわけなのか。


「詳しい話しはポーちゃんがしてくれるから端的にいうけど、まずこれは『悪魔の片鱗』ってヤツだ。最初のは前兆を……いや、魔力の流れを予見して絶対当たらねェように避けた」


 人間ならば銃弾を避けることなど不可能である。だが、実際現実としてクールは銃弾を避けたのだ。


「次が魔術の防御。一定以下の魔力しか入ってない魔術は、片鱗を使えばそもそも喰らうことはありえねェ」


 曖昧な説明だが、弱い攻撃ならば勝手に防いでくれるということだろう。


「最後。これが一番重要かもな。魔力を身体にまとわせ、圧倒的な破壊力を生み出せる。その他にも”カイザ・マギア”とか色々あンだけども……まあ、あとはポーちゃんに任したよーん」


 クールはポールモールの肩をたたき、そのまま帰っていった。


「ここから先はオレが全部教える。それが対価条件だ。ルーシへ魔力を提供する代わりに、アークくんは気がついたときにはランクS……そしてセブン・スターズになってるさ。なにせ、片鱗を教えるのはおれの得意分野だからな」

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