虐殺少女(*)
そのとき、メントとメリットも動いていた。
「根暗、誰が実行犯ってわかんの?」
「わかる。絶壁さん」
「絶壁だぁ!? オマエなぁ!? 人にいって良いことと悪いことが──」
「先に根暗っていったのはアンタ」
「あぁ? そりゃそうだろ。根暗に根暗っていってなにが悪いんだよ?」
「絶壁に絶壁っていってなにが悪い?」
不仲にしか見えないし、実際不仲だが。曲者であるメリットと正攻法で相手を倒せるメントの相性が良いのも事実である。
「……ちっ。わかったよ。パーラのためだ。もうオマエなんかといっしょに行動したくねえけど、今回だけは特別だからな?」
「お互い様」
そうこういっている間にも、メリットは自室に置かれた複数のモニターとコンピューター。そしてキーボードを凄まじい速度で動かしていく。
「LTAS最高峰もたいしたことない。防犯カメラ、あっさり割れた」
「あ? パーラは自宅であんな目にあったんだろ?」
「空気入れたのはMIHの連中。クソガキは煽りに乗ったヤツらを潰したし」
「は?」
メリットはスマートフォンでニュースをメントへ見せ、
「実業家のネクスト氏が自首した。ちゃっちい拳銃とともに。同時にネクストが所有してたビルでは、200人を超える死傷者数が出てる。ネクスト氏は黒い噂に満ちてて、実のところマフィアでないかと当局に疑われてる。ここまでいったら、脳筋のアンタでもわかるはず」
メントの肌に鳥肌が立った。そしてよく見てみると、メリットも淡々と話しているが、彼女が握っているマウスは若干震えていた。
「……ルーシがやったってことか?」
「だろうね」
「完全な人殺しじゃねえか……」
「クソガキは私たちをうまく丸め込む。だから、その話をしても無駄」
あの幼女はきっと、白を切るだろう。100パーセントと99パーセントではまったく違う。あの銀髪のちいさな女の子が、自分の行いではないと断言すれば、このふたり……いや、パーラさえもそれ以上の問いただしはできないのだ。
「ともかく、向こう1週間の防犯カメラを洗う。ここからは……」
メリットは目をつむり、数秒後に悪夢で覚めたかのように目を見開いた。
「……実行犯確定。ウィンストン・ファミリーでもっとも権限も持つ女2人組。ウィンストンやキャスターといった実力者に股開いたんだろうね」
「顔は?」
「拡大する」
「まさしくビッチだな。頭ン中×××しかないだろ。ヘドが出る。現在地は?」
「MIH学園で平然と授業受けてる。攫う?」
「そうしよう」
メントは真面目な生徒だ。だから、しばしばランクAにもっとも近い生徒といわれてきた。学業優秀で、優等生で、広告塔として申し分ないだけの実力とMIHの思惑に従う生徒として、計算されていたのは間違いない。
そんな女子高生は、おそらく人生ではじめてといって良いほどの、悪行へ走る。
*
「てかさ~ウィンストンくんってテクニシャンだよね~」
「ね~。顔よくてうまいって最高じゃね? しかもデカい!! 本当、彼氏にしたいわ~」
「それよ~。ウィンストンくんかキャスターくんが彼氏になったらさ、もうウチらに逆らえるバカいなくなるっしょ?」
「それはどうだろうな?」
彼女たちは、怪訝そうな表情で先輩の女生徒に返事する。
「メント先輩にメリット先輩……。なんの用ですか? あたしたち学年違うし、絡みないですよね……?」
「ああ」
刹那、メントは鬼の形相で、女子野球部で培った腕で、少女の片割れの胸倉を掴み、思い切り殴った。
「…………っ!?」
「要件、わかるべ? 着いてこい」
「て、てめえ!! あたしらにこんなことしたら、ウィンストン・ファミリーが黙っちゃいな──ぎゃっ!?」
メリットの右手の人差し指から、硝煙のようなものが出ていた。
「次の壮麗祭で使えそう」
「小技ばっか並べておもしれえのかよ? バントやエンドランも重要だけどよぉ、やっぱホームランが一番だろ? ……なあ!?」
黒い矢印が現れる。そして爆発。
加減はしたつもりだが、どうやらそれで気絶してしまうような程度の連中でしかないらしい。
そんな場面に、パーラやルーシの女担任が現れた。低身長の童顔。かなり昔からこの学校にいる、立場の高い先生である。
「おーい。おめえら。いまは厳しいんだからよ、そういうのは目立たねえ場所でするもんだぜ? まあ……オマエらほどの子がブチ切れてんだ。ここは見逃してやるから、殺すことだけはやめとけよ? さすがにあたしも生徒が生徒に殺されちゃ庇えないからなぁ……」
「ありがとうございます。先生」
メントは深々と頭を下げ、殺意が膨張しきった顔でふたりを引きずっていく。
*
「よう。目ぇ覚めたか」
「……この陰キャが!! この学校じゃスクールカーストがすべてなんだよ!! だから、あたしたちは頭使って生き残ってんだ!! てめえらみたいにスキルを持ってねえからな!! 絶対に許さねえ!!」
「あっそ。根暗、ライター」
「どうぞ」
ふたりとも長い髪の毛をしている。彼女たちがいうように、この髪型すらも、頭を使って生き残りを図るために必要なものなのかもしれない。
だから、ひとまずメントはその髪を焼き始めた。
「っっっ!? あついっ!? 頭がぁ!? 誰か助け──」
手足を縛っているため座らされている彼女たちへ、なんの容赦のない渾身の蹴りが浴びせられる。
「なあ、強姦された娘がいたんだ。その娘はもっと助けてほしかっただろうな?」
「パパ、ママ、助け──!!」
「根暗。煙草に火ぃつけて」
「了解」
今度は目に煙草の火を押し付ける。
「なあ、父親も母親も殺されて、助けも求められない娘がいるんだ」
少女たちの頭に水をかける。
ようやく助かったと思ったのか、少女たちは涙を滝のように垂らし、心の底からふたりの先輩に恐怖を覚えた。
だが、この程度で終わるわけがない。
「も、もう許して……。謝るからぁ……」
「なあ、何度も何度も謝っても、母親まで強姦された娘がいるんだ」
学校の裏側。不良学生が持ち込んだのだろう酒の瓶が数瓶落ちている。
「根暗、オマエこっちな。あたしはこっち」
「はいはい」
手頃なサイズの瓶を持つと、メントとメリットは少女たちの顔へそれをぶつけた。
何度も何度も。念入りに。顔を潰すために。
「い、た、い、で……す……」
「なあ、いま意識不明の娘がいるんだ。もしかしたら死ぬかもしれねえ運命に立たされた娘がいるんだ」




