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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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"幼女"ルーシVS"セブン・スターズ候補員"フィリップ

 ルーシ・スターリングとフィリップ。

 LTAS(エルターズ)屈指の名門校で実質的に最上位の評価を受ける少女。

 LTAS(エルターズ)最強の魔術師たちの候補員。

 どちらが勝とうと、激しい損耗は避けられない運命である。


「ッたく、同盟者の本拠地をめちゃくちゃにしやがって。こりゃ依頼主も死んでるんじゃねェか?」

「そうだな、カエル野郎」

「あ?」

「フランス……ガリアの連中特有のなまりをしていやがるぜ、オマエ。そのなまりが耳に障るんだよ。クソみてーな発音するな」

「おいおい……両腕両足もいで見世物小屋にでも売ってやろうか? 口の減らねェガキが」

「ああ、やれるものなら……やってみろよ──!!」


 ルーシは銀鷲の翼をもはや音が遅れて聞こえるほどの速度で、フィリップへ直撃させた。

 だが、当てた感覚はなかった。なにか、そらされた感覚だった。


「よっ、グリッチ成功☆」


「グリッチ、だァ? そりゃずるいな」ルーシは首を振り、「要するに、一時的に自分を別空間にでも移動させたんだろ? なるほど。これが旧魔術か。だがよ……」


 今度は羽が空を舞った。ひとつひとつが致命的になりうる、殺傷性しかない羽である。


「一瞬だけ避けられたところで、この範囲は無理だよな?」

「ヘッ、おれのスキルすらわかってねェくせに、随分自信満々だな?」


 そしてフィリップの身体に、崩壊したビルの鉄くずが集まりはじめた。それはまるで一種の意思を持ったかのように、ゴーレムの身体を成していた。


「これだけ鉄くずがありゃ、兵隊は増やし放題だな!」


 それが一体、2体、3体、4体……と増えていく。

 ルーシはひとまず強度を確かめるために、爆発的な速度でゴーレムに詰め寄り、拳をぶつけた。


「……こりゃ硬いな。すこししか壊れないじゃねェか」

「屈強な兵隊があっさり幼女にやられちまえば、名折れなんて話じゃ済まねェだろ? さーてと」


 10体、それは生まれた。

 ルーシは首をゴキゴキ鳴らす。それはつまり、戦闘が過酷なものになるという意思表示だ。


「たった10体で大丈夫かい? 最低でも1000体はほしいと思っているはずだと感じるが?」

「あァ? なんでてめェみたいなガキ相手にそんな魔力使わなきゃいけねェんだよ? おれはセブン・スターズにもっとも近い者のひとりだぞ? やらなくて良いことはしねェんだ」

「そうかい……。ならばカエル野郎。オマエは随分と鈍いようだな?」

「あ?」

「私がただのガキに見えるのかい? 戦闘ヘリコプター(チョッパー)で突撃してきたのは誰だ?」


 ルーシは淡々と話す。


「軽機関銃で構成員どもをぶっ殺しまくったのは誰だ?」


 されど、フィリップはヘラヘラと笑っている。


「翼でビルを真二つにしたのは誰だ?」

「ああ、オマエだな」すこしたりともおののいていない。

「そして……オマエを潰すのは誰だ?」

「強いていえば現状のセブン・スターズか、クールさんだろうな」

「では、そのクールを倒したのは誰だ?」


「あァ?」怪訝そうな顔をし、「クールさんが負けるわけねェだろうが。ジョン・プレイヤーさんに惜敗したのが最後で、それ以外は圧勝しかしてこなかった方だぞ? 尊敬してるんだ。あんな風に冷や汗ひとつたらさず相手をぶっ潰すことができる人をな」


「そうかい……。ならば、会話はもう要らねェな──!!」


 銀鷲の翼。超能力と魔術が混じった、極めて不安定な能力だ。なので未知数なところは多い。実際、メントもルーシの鉄壁を一瞬だけ破ったのだから。

 ならば、実験する良い機会だ。


 刹那、ビルは文字通り倒壊した。


「おそらく最大火力だろうな……。だが、体力はさほど消耗していない。ぶっ壊すことに関しては、黒鷲より上かもな」


 ゴーレム兵もフィリップも落下していく。しかし、フィリップには「グリッチ」という旧魔術がある。1瞬空間転移してしまえば、安全に落下することができるだろう。


「おお、怖ェ怖ェ。最近のガキは加減ってものを知らねェみたいだな」


 当然のように瓦礫の山から姿を見せるフィリップ。

 そして即座に兵隊が集められる。


「おしおきの時間だ。中にいた連中はみんな死んじまっただろうし、お灸を添えねェとな?」


 兵士が一斉にルーシへ襲いかかる。

 ルーシは不敵な笑みを浮かべる。

 ルーシの手が花火のように光った。


「それに……どうやらスキルもある程度使えるようだ」


 そう言い放ち、ルーシは鉄くずのひとつを殴る。

 そうすれば、所詮クズの集まりであるものは見事に崩れ去った。


「……ッ!?」


 ここではじめてフィリップは焦る。コイツらを壊すには、相応の魔術が必要なのに、この幼女はたいした魔力を使わずそれを壊してしまったのだ。


「弱ェな、オマエ」


 ルーシは煽る。それに憤慨したフィリップは、我を忘れたかのようにルーシへ突撃していった。


「なめてんじゃねェぞ!! クソガキィ!!」


「ああ、言葉ってのは難しいよな。私がいったのは、オマエのスキルが弱いって意味じゃないんだ」


 無謀な突撃であった。鉄を手に集めて殴りかかったほうが有効なダメージを与えられるはずなのに、フィリップはそれを放棄してしまった。

 だから、ルーシの拳が彼の顔に突き刺さるかのように、小気味よい破裂音とともに、攻撃を与えた。


「頭が弱ェって意味だ。冷静に考える力がありゃ、もっと有力な攻撃を与えられたのにな?」

「……ってェなッ!! メスガキッ!!」

「残念。私は痛くないんだ」


 近接戦闘。こうなるとルーシはまず負けない。もはや翼を展開しなくとも、つい先ほど開花したらしい拳のみで攻撃を与え、前世で培った喧嘩の能力で相手のでたらめな攻撃を避けるだけである。


「はあ、はあ……。舐めやがって……! 舐めやがってよォ!!」


 ここまで来たらあとには引けない。フィリップはあたりに散らばる鉄を手にまとわせ、さらにゴーレム兵を30体まで増やし、同時攻撃でルーシを潰そうとする。


「ああ、ちょっとは冷静になったみてーだな?」


 だが、ルーシが焦る必要性はまったくない。


「おもしれェもん、見せてやるよ」


 ルーシは背中に壮麗な黒鷲の翼を生やした。サイズはさほど大きくない。3メートルくらいだろう。


「……まだ必殺技があるってことかッ!?」

「そうだが? こういうものはトドメを刺すとき見せるから輝くんだ」

「て、てめェ……舐めやがってッ!!」

「舐めてなんかねェよ。誰がてめェなんか舐めるかよ」


 ルーシとフィリップの殺意が膨張していく。目つきは獣のようで、しかし表情は対照的だった。


「単調なスキル。単調な攻め方。オマエ、モテねェだろ? 友だちもいねェか? つまらんヤツには誰も寄り付かねェ。さて……」


 雄叫びとともに1撃を展開しようとするフィリップ。30体の怪物が、鉄の塊でできた10メートルにも及ぶ、もはや手なのかも判別不能ななにかが。

 そんな中、ルーシは一言で断ち切る。


「あばよ、カエル」


 黒鷲の翼がそれらに触れるのは1秒とない。そして、勝敗は完全に決した。


 *


 惨めな魔術師がそこにいた。

 自身の生み出した兵隊に一方的な攻撃をされ、腕はもげて、極めつけに目の前には日本刀を持った銀髪碧眼幼女、いや……怪物がいる。


「ポン刀なんてひさびさだぜ。まあ、おれはあまり剣術強くねェから、たいてい切り捨て御免!! ……ってな」


「ひゅー……ひゅー……」


「喉笛もちぎられたか。じゃ、楽にしてやるよ」


 ルーシは日本刀を使い、上半身を起こすのがやっとなフィリップを切り捨てた。

 血で染まった刀を拭き、ルーシは峰へ連絡する。


「ネクスト・ファミリーは壊滅した。……なに? クールがヤツらのボスと護衛を襲っている? 良い軍師だ、オマエは」


 *


 クールとネクスト・ファミリーのボス、そして護衛の戦闘など、時間にして1分もかからなかった。


「う、嘘だろ? なぜフィリップは来ねェんだ!? ヤツがいればこの腐れ外道から逃げる時間が稼げたのに──」

「悪リィなぁ。フィリップってのが誰だか知らねェけど、ソイツはたぶんウチのボスがやっちまっただろうな~。やー、アイツキレるとやべェって思ってたけど、まさかここまでとは」クールはなんとも無邪気な笑みを浮かべ、「まあ、あれだ。おれは腐れ外道っていわれてキレるほど器のちいせェ男じゃねェ。生き延びてェか?」


 ボスはガタガタ震えながら、ションベンまで漏らしながら、

「あ、ああ!! 金なら払う!! 引退したって良い!! シマはアンタらに譲渡したってなにも文句いわねェ!! だから、命だけは見逃してくれ!!」

 必死な、みっともない懇願をする。


 それを見たクールはため息をついた。


「……無様だな。ま、生き残りてェのはみんないっしょだもんな? じゃ、ほら」


 クールはチープな拳銃を彼へ投げ渡した。


「こ、これでなにを──!!」

「自首してこい。おめェらの本拠地がぶっ壊れた所為でたくさん死んだ。だから自首しろ。理由は自分で考えるんだな」


 事実上の死刑宣告。もはや万策尽きた彼は、その場にうなだれる。どのみち、コイツらは自身の家族さえも狙うだろう。ならば、受け入れるしかない。


「……姉弟(きょうだい)、友だちのためにひとつの組織滅ぼすとは、ロックンローラーだねェ」

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