運命の分かれ道
「オマエはいますぐにでも煙草を吸いたそうに見えるけど」
バージニアはなんの臆面もなくそう言い放った。この男の考えていることは意味不明だ。
「1日に8本までって決めてる」
「嘘だね」
「……はあ?」
「肌荒れと口臭、体臭や老けるのが嫌だからそう言ってるだけに感じる。だいたい、喫煙者にそんな考えは必要ねェだろ?」
メリットはバージニアが煙草を吸うのを見て、身体がニコチン・タールを欲しているのを感じる。あのクソガキが吸っているときもそうだった。だからついつい釣られて一箱吸ってしまったのだ。
「オマエの望みは……あー、いや、この場での希望はなんも気にせず煙草を吸うことだろ?」
「……まあ」
「おれは人の望んでることがかなう瞬間、それが続く時間が大好きだ。だから、ほら」
バージニアはオイルライターの火をつけた。
メリットはその誘惑に負け、煙草を咥えた。
*
あれから30時間。ルーシは目を覚ました。
隣にはヘーラーが寝ていた。ルーシはライターで彼女の髪を炙り、メンヘラ天使の悲鳴とともに生きていることを確認する。
「……生きているなぁ。歯ァ磨いて風呂入って返信して、と」ルーシは背筋を伸ばし、「それで? メンヘラの梅毒ちゃんはなんでこの部屋へ入ってきたのかな?」
「ルーシさんと添い寝したいなあって思って……。こんなかわいい子といっしょに寝られたら、私もう死んでも本望ですよぉ……」
「一時間100万メニーで検討してやるよ。だが、カネがねェのなら失せろ」
「そんな殺生な!! ルーシさんを私好みの幼女へ創り上げたのは──!!」
「天使って頭撃たれたら死ぬのかね?」
ルーシは近くに置いてあった拳銃を、ヘーラーの頭へ向ける。
「え、あの、まさか私のこと殺そうとは……?」
「この前もいったよな? 死んでほしいくれェ恨んでいるってよ」
ヘーラーは一目散に逃げていった。
ルーシはため息をつき、ようやく新たな1日がはじまるので、喫煙・飲酒より先に首をゴキゴキ鳴らしながらなんとなく携帯を眺める。
「うーむ。ネクスト・ファミリーが侵攻を考えているという情報があると……。ネクスト・ファミリー? ……ああ、LTASの東街でスターリング工業と競っているマフィアか。クールのちいせェシマすらも切り取ろうとするヤツら。今度の幹部会で戦略を練るか」
そんな情報を見たあと、ルーシは学校用の携帯を見る。
「……あ?」
ルーシの目を奪ったのは、メリットやメント、キャメルやアークのメッセージではなかった。
『ルーちゃん 助けて』
その悲壮な叫びは、あのおしゃべりな獣娘、パーラのものだった。




