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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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短気は損気(*)

 そんな雰囲気のなかでも、空気の読めない人間は平然と割り込んでくる。


「よお、いつぞやのカマ野郎じゃねえか。あんとき表情筋死んでたけど、いまも死んでるな。なんか嫌なことでもあった?」


 メントである。ユニフォームを着ていて、その白い戦闘服は泥やら砂ホコリで汚れきっている。


「……格下が割り込んできて、なんの用かしら? 私は苛立っているのよ?」

「知らねえよ。ただ知り合いがいたから話しかけただけだ。コミュニケーション能力が大事だからよ。つか、そうやってカリカリしてるから身長もおっぱいもちっちゃいんだ。主席さん」

「……おっぱいがちいさいのはお互い様だと思う」


 アーク・ロイヤルはボソリ、とつぶやいた。


「「あ?」」


 そして、キャメルとメントの地雷は踏み込まれた。


 アークは正気に戻ったかのように、

「……ごめん。ちょっと思ったことをいっちゃっただけなんだ。別に他意はないよ。ボクだって身長低いしね」

 適切なのかわからないフォローを入れる。


「思ったこと、だあ!? てめえ、あたしがどんだけ牛乳を飲んでマッサージをしてると──」

「……いつも通りね、ようやく」


 メントがコミカルな怒りを発揮しているとき、キャメルはどこか安堵の表情を浮かべていた。


「そうみたい。さっきアロマにもいわれたけど、ちょっと心療内科行ってみるよ。なんか最近変なんだ。すぐ人を傷つけるようなこといっちゃう」

「……そうしなさい。私だってアナタを潰したくはないわ」

「うん、ごめんね。じゃ、また」


 アークは携帯を取り出し、おそらく病院へ電話をかけながらキャメルたちの元を去っていった。


「へえ。あんなのが好みなんだ」

「……アークと闘う気は失せた。けれど、アナタと闘う気は起きたわ」

「怖えな。やっぱカルシウム足りてねえよ、おめえ。短気は損気っていうじゃん?」

「極めて正当な苛立ちだと思うけれど?」

「そうか? 勝手にブチ切れて、勝手に苛立って、勝手に人のことボコそうとしてるだけだろ。あたしだってバカじゃねえから、主席に挑むつもりはねえ。だから、じゃあな」


 MIH学園の守備がはじまったことを知ったメントは、足早に去っていった。


「……まったく、ドイツもコイツも」

(短気が損気? この性格の所為で損してる? お兄様の面影をアークへ求めてる? なにをいいたいのかさっぱりだわ。これはなんの夢かしらね? 夢でないのなら……やっぱりドイツもコイツもムカつくわ。生理ってわけでもないのに)


 *


 メリットは本を読んでいた。周りは本だらけだ。本の匂いで腹痛を起こしそうになるほどである。


「……時代は電子書籍なのに」


 彼女の読む本は、ゲテモノ料理といっしょだ。普通の人は好んで読まないものである。


「ソースがない。ボツ……なんで、()()()って忘れ去られたのやら」


 この世界の魔術はおおきくふたつに分けられる。

 いわゆるスキルといわれるヤツが、類義的には「新魔術」と呼ばれる。つい100年前ほどに理論化された魔術だ。

 そして、旧魔術とは──。

 

「かつて使われていたはず、そしていつの間にか消えてしまった。でも情報として魔導書っていうよくわからんものが残ってる。さらに言えば、レベルの高い魔術師はみんななぜか使える、だろ? メリット」

「……厄介事が来た」


 メリットは、根元が黒くそれ以外は紫色になっている髪色の、不良風な見た目をした少年から、コーヒーを渡された。


「厄介事とは失礼な。ある意味寛大なおれを目の前にして」

「寛大? だったら1000メニーいますぐ返して」

「それは言わねェ約束だぜ……。金がねェ人間に金を求めるなんて、無義だとは思わねェか?」

「金がないなら金を借りない。そんなこと、幼児でも知ってる」

「恋人にたいする言い草じゃねェな」

「アンタは勝手に私の尻を追いかけてるだけでしょ、バージニア」


 バージニア・エス。いや、彼は元王族ではないのでバージニアが本名なのだが、付き合った女子がことごとく彼をサディストというため、いつの間にかエスというあだ名が名前の後ろに来るようになってしまった、変なヤツである。


「いやいや、おれのテクニックを知らねェからそういうこといえるだけさ。仲良くしようぜ?」

「テクニック? ビッチに首輪つけて4つん這いにさせてMIH学園を散歩してた人間のテクニック? 悪いけど、SMには興味ないし、社会倫理くらい守ろうと思ってる」

「ありゃあの子が望んだからやっただけだ。おかげで1ヶ月停学。しかもその子の親が裁判しかけてきて、オマエやそのほかから金借りる羽目になった。親も呆れてなんもしてくんねェしさ~」


 つまり、そういうヤツである。メリットに関わってくる人間にまともなヤツはいない。そしてそれはメリットが異常者だという証明でもある。


「SはサービスのS。MはマスターのM……。本当、業が深い」

「そう思うだろ? おれは人の望むことしかしないんだよ。でも、望まれたことをするとなぜか異端児扱いされる。その点、オマエは望みが分かんねェ。だから付き合おうぜって話だ」

「望み? いますぐ眼中から消えてくれることしかない」

「そう思ってねェだろーから絡んでるんだよ」

「そう思ってほしい」


 なかなか不毛な会話だが、メリットもバージニアを無理やり追い出そうとはしない。バージニアはランクBだが、正直実力はメリットには及ばない。その証拠もある。


「だいたい、ランクBをあっさり負かしたヤツなんだぞ、オマエは。マジでびっくりしたわ。楽勝楽勝って思ってたら、なんかボコボコにされるのよ。ついにおれもバージニア・()()になっちまうのかと思ったけど、ただ痛てェだけだなあれ。サービスマンとしてはいただけない」

「口先だけは偉そうなヤツを負かしたときほど、気分の良いときはない」

「そう感じてねェはずだ」

「……さっきからなに? また金の無心? 次はどんな裁判? 路上で自慰行為でもやらせたの?」

「いや、ヤニくんねって話しだよ」

「……ほら」


 図書室。当然喫煙は禁止。そもそもメリットとバージニアは未成年であるため、発覚すれば停学もありえる。いや、バージニアはランクBなので喫煙程度ではなんの処分を受けないかもしれないが、ランクDのメリットは常にその可能性がついてまわる。

 それを踏まえれば、バージニアが当然のように煙草に火をつけたのはよろしくない行動だった。


「……アンタ、私のこと嫌いなの?」

「んー? むしろおもしろいヤツだとは思ってるけど」

「だったら外で吸ってよ。持ち物検査されたら、困るのは私」

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