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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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勝機があるか、正気じゃないか(*)

「なあ……やっぱ病院行くべ? 金がないんなら出してやるから」

「ボクは超富裕層だよ? 国からとんでもない金搾り取られてるアロマよりお金なら持ってる。むしろ国からお金もらってるくらいだからね。だから、そういう話じゃないんだ」

「けどよお……オマエやっぱおかしいぞ? 原因がなんなのかはわかんねえけど、ここ2~3日様子が変だ。自覚あるか?」

「あるといえばあるし、理由もわかる。心配無用だよ」

「あたしに話せねえ理由があんのか?」

「どんな人にも話せないことはあるでしょ」


 そんなわけで平行線である。アークは鬱のような状態を自分でもわかっていて、理由もわかるらしい。だが、それをアロマへ伝えないのは変な話だ。なにか変わったことがあれば、性別こそ違っても、親友へはしっかり言うはずなのに。

 そういぶかんでいると、目の前に女子の大群がいることにアロマはようやく気がつく。


「……滑稽だな。群れねえとなんもできねえの?」

「中心にいる子を見ればわかるんじゃない? 群れてるってよりは、ひとりでいたいときも誰かが近くにいる状況に見えるし」


 アロマはアークの言葉を聞き、中心に立つ背丈の低い女子を見る。


「おお、あの偽善者じゃん」


 アロマの毒しかない言葉を聞いても、アークは特にとがめなかった。

 この状況からしておかしいのだ。アークはアロマの毒気を嫌う。いや、人の毒を嫌う。そういった言葉を聞いたとき、アークはそれとなく注意するのに、この2~3日はそれも放棄している。


「ちょっとキャメルに会ってくるよ」

「……あ?」

「幼なじみだしね。毛嫌いすることもないでしょ」

「いやいやいや、アーク……。オマエ、昔あの女と揉めに揉めたじゃねえか。良いの?」

「昔のことをほじくり返してくるような器の小さい子でもないよ、キャメルは。すくなくとも、派閥メンバーの前じゃ普通に振る舞うと思うし」


 そういったときには、アークは女子の群れへ向かっていた。


 アロマは、

「あーあー……もう知ーらねえと」

 そうつぶやいて戦争になる前にさりげなく立ち去ることとした。


「やあ、キャメル」


 キャメル・レイノルズは、最初こそ下手なナンパだと思っていたが、目の前にいるのが紛れもない幼なじみだと知れば、目の色を変えた。


「……あ、アーク?」

「そうだよ。こうやって話すの、久しぶりだね」


 キャメルの派閥──フランマ・シスターズは、臨戦態勢となった。キャメルとアークの間になにが起きたのかは知らないが、ふたりの仲が悪いのはもはや公然的だ。


「キャメルちゃん……ここは」

「いや……大丈夫。みんな先に行ってて」


 彼女たちはいまにもツバでも吐きかけそうな態度で、アークの横を過ぎ去る。


「相変わらずだね。仰々しくてさ」

「……一体なんの用かしら? 要件によっては、私も慈悲を与えるつもりなんてないけど」

「赤ちゃんのころからいっしょにいる子と話すのに理由がいるの? それじゃ寂しいね」手を広げる。

「……アナタ、本当にアーク?」


「本当ってなに?」アークは空を見上げるような、いってしまえば関心がないような目つきで、「本当もなにもないよ。人間にさ、本当なんてあったらおもしろくないじゃん?」


 キャメルは直感的な感覚で、目の前にいるのは彼女の知るアーク・ロイヤルでないことを悟る。彼はなにかを失った。いや、なにかを手にした。なにかを得てしまったがゆえに、人格さえも不安定になっている……と推察する。


「そうかもしれないわね。けれど、そんなことをいうアナタなんて誰も見たくないわ」

「うん、ボクも見たくなかった。あんなに強かったキャメルが、あんなどこにでもいるような女の子みたいにボクへすがってくる姿は」

「……あれは──」

「クールくんのことが好きなんでしょ? いや、クールくんみたいな役割をボクに求めてるんでしょ? 強くて偉大なお兄ちゃんを。でもさ、キャメルはもっと考えたほうが良いよ? クールくんみたいな人なんていないってことを。あのヒトは強すぎる。そうは思わない?」

「……くだらない説教でもしに来たのかしら? 幼なじみと世間話をするわけでなく」

「いいや、ボクにも余裕が生まれたってことさ。あのとき、ボクはキャメルの言ってることの意味がわかんなかった。なんであんなにボクを求めるのかも分かんなかった。キャメルはボクなんかよりもかっこよくて強い人をたくさん知ってると思ってたから」


「……そうね」キャメルもまた、喫煙でもするように宙を見上げながら、「子どもの考えることに正解はないってところかしら。私もすこし余裕が生まれたのよ。ある親戚と会ってね」


 キャメルの脳裏には、あの銀髪で青い目をした少女が焼き付いている。到底10歳児とは思えない、自らを10歳だとうそぶいているような幼女が。

 だが、それすらも見透かすように、アークは言い放つ。


「いまだって子どもじゃん」

「……ねえ、私とやり合いたいの?」


 キャメルの眉間にシワが寄る。


「別に良いけど」あっさりといい放ち、「さっき、野球をなんとなく眺めてたんだ。あれのルールはよくわかんないけど、サッカーより点が入りやすいことくらいはわかる。だから、10点差で負けてた試合が3点差くらいまでうまるんじゃないかな?」


「あら、随分と自分を高く見積もるのね。自信過剰は自分を滅ぼすわよ?」


 キャメルはこの学校の主席だ。それが3点差まで詰め寄られたら、プロリーグでMVP級の活躍をする選手としては恥なんて次元ではない。キャメルは負けてならないのだ。負けることが許されないのだ。


「どーだろうね。率直に思ったこといっただけだけどさ」

「……勝機があるのか、正気じゃないのか、ここで証明してあげようかしら?」

「相変わらず短気だね。キャメルに良い男の子がやってこないのはさ、そういう性格だって起因になってると思うよ?」

「だから?」キャメルの語気は強い。


 一触即発の雰囲気だ。キャメルはすでにアークと闘う覚悟は決まっているし、アークも表情には出さないが、こういった煽りを入れる時点で彼のなかでもなにかが決まっているのだろう。

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