オマエらの選択は?
「下半身に魅力を感じる男がいると……。クソガキ、アンタ同性愛者というより、中身男みたい」
「オマエに男がわかるのかよ。貧相な身体しているくせに」嫌味な笑顔まじりだ。
「わかんないほうがおかしいでしょ。お姫様だってそれくらい分かってるはず」
最前から嫌味しかいわれていないパーラは、されどまったく苛立ちなどを見せることなく、
「わかるよ~。だってさぁ、ふたりきりで遊ぼうよって男子に良く言われてたもん。んー、だいたい40人くらいかな? 全部断ったけどね!!」
悪意なくメントを傷つける。
「……良いよな。オマエは」
意気消沈としていたメント。彼女なりに理由を考えた結果、武器になるのかも微妙な武器を持っていると伝えられ、結果的に問題そのものは解決へと至っていないので、こうなるのも無理はない。
「良くないよ~! 興味ないものに興味持てって辛いじゃん! まあ私にはルーちゃんがいるけどさ?」
パーラはルーシと腕を絡め合う。
(……親友なんだよな? メリットやおれより付き合い長げェんだよな? なんでこんな無邪気に小バカにできるんだ?)
「……アンタのそういうとこ、結構好きだよ」
「え? なにが?」
「あたしに向かってそんな口叩けるヤツなんてそうはいないし。あーあー、本当……ないものねだりなんだな」
「男から求愛されるが同性愛者。女から求愛されるが異性愛者。だろ?」
「そうだよ。それっぽい雰囲気をもった子に5回くらい告白されたことがある」
「だろうな……」ルーシは半笑いを浮かべ、「さて、諸君。話を進めよう。私たちは愉快な貧乳仲間じゃねェ。もうひとつ共通点があるだろ? メント、オマエだったら詳しいはずだ」
「ウィンストン・ファミリーの連中が喚いてたことから推測は立つけど……」
「なかなかおもしろそうな絵面」メリットの語気は楽しそうだ。
「そういうことだ。私とパーラはウィンストン・ファミリーとやらに完全的な宣戦布告をすることにした。もうナンバーツーをやっちまったんだ。アイツらだって黙っていられねェはず。そこで同志がいる」
「パーラを守るためと。なら乗るけどよ」
メントの口調はあっさりしたものだった。パーラとメントの関係性など知らないし、知ったところでたいした意味があるとも思えないが、このふたりには確固たる友情がある。友情がなければ、パーラの親友は務まらないし、メントの親友は務まらない。
「メリット、オマエはもうわかっているようだな?」
「お姫様を守れミッション。報酬はビタ一文も発生しない。私は落ちこぼれを守るほど余裕があるわけでもない。だったら、アンタはいったいなにを提示するわけ?」
「どんなスキルがほしい?」
「……はあ?」
「オマエはスキルがねェからランクDとかいうよくわからん落ちこぼれなわけだ。なら、スキルがありゃランクAまで到達できるんじゃねェか? まあ、成功するかは未知数だが……やってみなきゃ分からねェことだってたくさんあるんだ。新たなる世界を望むのなら、私がなんとかしてやる」
ルーシの前で本音を隠すことはできない。ルーシは必ず人間の秘所を見抜く。
だから、メリットの表情はわずか揺らいだ。いつもどおりの不機嫌そうな表情、いつもどおりの不気味な雰囲気が崩れたのだ。
「おお、人間らしい反応できるじゃねェか。心を失った哀れなゴーレムとでも思っていたが……やはりオマエも学生だな。いまあるもので満足するという当然の判断ができていねェ」
「……それのなにがいけないわけ?」
「いけねェとはいわねェ。だが、それはガキの発想だ」
「だったら大人の発想こそ間違ってる」
「そりゃそうだ。大人は常に間違えている。歯切れの良い正論並べときゃ、自分は賢いと思えるからだ。昔よくいたんだよ、そういうヤツがな。オマエのやっていることは間違っている。オマエはこんな環境から足を洗うべきだ……って」
ルーシは10年前の記憶でも思い返すように、どこか感傷に浸った顔で、
「だから私はその度にいうんだ。だったら対案はあるのか、この環境以外で生きていくすべはあるのか、アナタが紹介してくれるのかって。ほとんどの連中は黙り込む。おもしれェくらいにな。……ああ、話がそれたな。要するに、オマエは他人と馴れ合うのに理由がほしいんだろ?」
メリットを突く。
結局、否定しようが肯定しようが、メリットの考えはルーシの掌の収められたのだ。所詮子どもが、所詮高校生が、ひとつの国の裏社会を征服した怪物にかなうどおりはない。これこそが「歯切れの良い正論」なのかもしれない。常に間違えている大人なのかもしれない。
「……ホント、気に食わないクソガキ」
「ね、ねえ……ルーちゃん。さっきから険悪な雰囲気しか漂ってないけど?」
「パーラ、良ーく現状を考えろ。オマエはなにも考えていないように見えて、この場にいる誰よりもこの愉快な貧乳仲間たちのことを考えているはずだ。いまさら説明する理由もねェよな? 派閥ってものがあるのなら、それに属すこともできねェコイツらは一匹狼でもなんでもない。ただの社会不適合者だ。それはオマエが一番わかっているだろ? なァ?」
(それにしたって、ガキどもをねじ伏せるのは簡単だ。だが、ガキに強力な魔術があるから、余計に面倒な青春劇が生まれてしまうんだろう。青春なんて無縁なおれでも、コイツらがろくでなしに限りなく近いヤツらだってことはわかる。無法者よりろくでもねェヤツらかもな)?
「女はなにかに属すから生きていける。決して女性をけなすつもりはないし、私だって女だが、普通に生きていればわかるはずだ。魔術のねェ世界を想像してみろ。オマエら、男に勝てるか? この世界は男を中心に回っている。男は簡潔な暴力で人を支配できるからだ。だが……諸君らは非常に幸運だ。その差を簡単に埋めてくれる魔術のある世界の住民なんだからな? なら、メリット……オマエの行動は実質一択だよな?」
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