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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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愉快な貧乳仲間たち

 メントは遅れてやってきた。彼女は真面目な生徒だ。わざわざ休み時間になるまで待機していたのである。

 故に到着時間はもっとも遅い13時だった。


「うわ、煙草臭せえ」


 教室番号は指定されていたが、それすらも必要なかったかもしれない。教室の前を通れば、鼻の器官が死んでしまうようなニオイが漂っていた。


「よくパーラは平気だな……。ヤニカスの考えてることはわっかんねえ」


 そんなわけで教室を開ける。


「ルーちゃん強すぎない!? もう20回以上負けてるんだけど!?」

「オマエが弱いだけだろ。ゲームなんてそんなにやらねェが、基本的な操作すらできていねェじゃねェか」

「……さすがオタサーの姫」


 灰皿……いや、花瓶から土と花を捨てて無理やり灰皿にしたそれには、もはや数えることも困難な吸い殻が溜まっていた。


「……女子のくせに臭くなること気にしねえの?」

「よォ」

「いや、あたしの質問に答えろよ」

「大丈夫。良い消臭剤を買ってさ。口臭も歯磨きしてフリスク舐めればなんとかなる」

「そういう問題なのか……?」

「そういう問題だ」即答だった。


 ルーシは小型コントローラーを置いて、腕を伸ばす。


「さーて、役者は揃ったな。もう内容はわかっているよな?」

「そりゃもちろん」

「なら良いんだ。メリット、賛成か?」

「クソガキとオタサーの姫とおなべ女と私。まともなのはいない」

「分かっているようでなによりだ」


 メントはただ、「派閥を立ち上げる」とだけ連絡されてここへ来た。この学校において、9割以上の生徒が属している、学生同士の連合体。

 では、なんのために派閥を立ち上げるのか。

 メントは4人の共通点を考えていた。パーラはともかく、ルーシとメリットはまったく知らない他人中の他人である。そんな他人を結びつけるものとは。


「じゃ、はじめようか。貧乳改善会を」

「……あ?」ルーシは目を見開いた。

「まず、個々のバストを言っていこう。あたしは──」

「メントちゃん……」パーラはい言いにくそうにメントを見る。

「なんだよ。オマエだって貧乳嫌だろ? 考えたんだ。なんであたしに彼氏ができないのか。そして観察したんだ。男の子がどこを見ているか。やがてわかったんだ。彼らは胸を見てると」


 ルーシは非喫煙者の前では極力煙草を吸わないようにしている。了承を得るか、了承など必要ない連中の前以外で、ルーシは煙草へ火をつけない。

 そして、メントが煙草を嫌っているのはわかっている。だから彼女が来た瞬間、ルーシは煙草を灰皿へ押し付けた。

 そんなルーシが、思わず煙草を咥えたのはいうまでもない。


「そう、胸なんだ。あたしは正直モテモテになりたい。お金目的ってわけでもないし、アクセサリー感覚でもない。ただただモテたい。歩いてるだけでナンパされるようになりたい。なら、どこが重要かなんだ。もう性格は変えられない。でも、あからさまなシンボルがあれば──」


「熱く語ってくれてどうも。感動したよ」


 メリットは嫌味を込めてそういった。


「だろ? わかってるじゃねえか、根暗女」

「よくわかった。アンタとお姫様がお友だちな理由が」


 パーラはあたふたと慌てていた。メントが天然なところがあるのは知っているが、メリットの口調はあからさまに喧嘩を売っていることもわかる。というか、特になにも考えていないと自負しているパーラですら、このままでは爆発するのが目に見えるくらいに、ふたりの馬はあっていない。

 では、ルーシはどう動く?


「あーあ、もうなくなっちゃったよ。私1日何本吸っているんだろうか」


 ……とぼけて逃げるつもりか?


「る、ルーちゃん……。この状況を見てなにも思わないの?」

「そういう常識的なキャラは似合わねェよ。どっちが喧嘩強ェか見るのもおもしろいぞ?」

「いや、メントちゃんもメリットちゃんも私の大切な友だちであって……」

「大丈夫。こんなところで力使われちゃ、陰謀にはかなわねェだろ? ここは私に任せろ」


 ルーシは立ち上がり、メントをじろりと見つめる。


「……なんだよ」

「いやー、確かに絶壁だなって思ってよ。10歳の私より小せェ。逆になんでそうなるのか知りたいなぁって思ってね」



 眉間にシワを寄せ、メントはルーシの胸倉を掴んだ。メントの身長は170センチ弱くらい。必然的にルーシは持ち上げられることになる。

 されど、ルーシはまったく動じない。


「喧嘩したいのか? 今度は生きて帰す保証はできないぞ? それにオマエが死んだらパーラが悲しむじゃねェか。いますぐ離せ」

「あ? 逆にてめえはこうやって煽られてムカつかねえのかよ?」

「煽っているわけじゃないのでね」

「……は?」

「ひとりの女のケツを追いかけるのが男の相だ。絆創膏で隠せるくらいの貧乳? だからなんだっていうんだ? どうせ告白もしたことねェんだろ?」


 見抜かれていた。それだけだった。

 メントは誰かに告白をしたことがない。それどころか、家族以外で男子の連絡先も持っていない。彼女は挑戦していない。なのにモテたい。わがままなのだ。

 しかし、彼女なりに努力をしようとはしているのも事実だろう。自分が男に相手にされないのは貧乳の所為だと考え、10才児であるルーシは別としても、同じく貧乳であるパーラやメントといっしょになにかしらの努力をすることで、問題解決を図ろうとしているのだ。


「そ、それは……」


「良いんだよ。女は勝手に男が着いてくるものだからな。だからそういう普通に憧れるのもわかる。だが……」ルーシはメントの尻を叩き、「セクハラオヤジみてーなことしたが、オマエには下半身があるじゃねェか。フェチは多種多様だぞ? オマエはオマエが知らねェうちに誰かから恋愛感情を持たれているのかもしれない。オマエは普通じゃねェ。だが、一歩だけ踏み出せば普通になれる。分かったな?」


 ルーシのそんな言葉を聞き、メリットはフッと鼻で笑った。彼女は小声でつぶやく。


閲覧ありがとうございます。

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