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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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貸した金返せよ

「……そうかい」


 結局、パーラは誰にも相手にされてなかったのかもしれない。同性愛者というある種の悲運を抱えながら、それでも必死に恋人を探していたのかもしれないが、つまるところ、パーラを恋人として見てくれるのはルーシだけ──しかもルーシからすれば都合の良い女としか捉えられておらず、されど彼女はルーシのことを信じているのだ。


「私は誰からも相手にされなかった。人を好きになるって感情がわかんなかった。メントちゃんは大好きな親友だけど、そういう関係へ持っていきたいとは思えなかった。でも、ルーちゃんは違う。ルーちゃんは私を見てくれる。それだけで優しいんだよ」

「……やり捨てされるとは思わねェのか? 私はそういう人間だぞ? 快楽主義の刹那主義だ。そう遠くねェ未来にオマエのことを飽きてしまうかもしれねェ」

「それでも良いんだよ」パーラはどこか冷静な口調だ。


「……分からねェな。そんなヤツ、見たことねェ」

「私は私で満足できれば良い。ルーちゃんはルーちゃんで満足できれば良い。恋なんてしたことないけど、きっとそうやってできてるんだと思う」


 ルーシも恋愛などしたことない。男娼時代が終わり、晴れて自由の身になっても、まるで復讐のように女を散々利用し尽くし、最後は捨てて終わらせる。だから、実年齢18歳のルーシは、並の人間よりも断然経験が深いルーシは、それでもなお恋愛はしたことがない。


「……そうかもな。だったら私は満足するまで暴れるだけだ」


 そうやって話していると、不気味な雰囲気を漂わす少女がやってきた。間違いなくメリットだ。


「クソガキ、落ちこぼれ。授業サボって恋愛ごっこ?」

「授業なんざどうだって良いんだよ。どうせランクAの私へ教えられることなんてないだろうからな」

「まあ良い。携帯は?」

「ほら」


 ルーシはメリットへ携帯電話を投げた。メリットはそれをキャッチし、即座に解析をはじめる。


「メリットちゃん!! あれだけ化粧の仕方教えたのになんで化粧しないのさ!?」

(いつもどおりのパーラだな。どうやらコイツなりに人との距離感は考えているらしい)

「別に良い。化粧しなくたって、死ぬわけじゃない」

「でもさ〜、女の子なんだからそこはしっかりしようよ〜!! せっかく可愛いのにもったいないよ!!」

「……クソガキ、もう私はコイツを無視する。条件はふたつでしょ? 私の魔術を教えること、この携帯を分析すること」

「そうだ。前者は後でも良いが、後者は急いでくれ」

「なにを特定しろと?」

「コイツの携帯に入っている、ウィンストン・ファミリーで一番権力を持つヤツだ。ソイツから回収する。貸した金は返すのが鉄則だ」

「了解」


 メリットは携帯に触れて、なにやら目を閉じた。

 そして、彼女は数秒としないうちに答えを導き出す。


「ウィンストン・ファミリーNo.2、キャスターが出てきた。現在地は校舎」


 パーラはあからさまにうろたえているようだった。キャスター。ウィンストン・ファミリーがどれほどのものかは知らないが、その飛車角となればたいしたものではあるのだろう。


「何階だ?」


 されどルーシはなにも感じていなかった。所詮相手は学生だ。負けることはありえない。相手が魔術師のみを集めた軍集団と同等以上の実力を持つような人間相手に、勝ちに近い引き分けを収めているルーシは、たかが学生ごときにはおののかない。


「4階。405教室」

「なにやっているかとかわかるのか?」

「SNSでも見れば? ほら、ID」


 ルーシは携帯を開き、キャスターの行動を見る。


(バカってのは救いがねェ。コカインパーティーなんて載せていたら、胴元のおれたちも困るだろうが)


「……なにこれ」パーラは顔をこわばらした。


「コカインだろ」ルーシは冷静に続け、「そんな危険性の高けェものでもないが、ラリっているのは間違いない。ここは強襲するか」


「強襲、ねえ」メリットは鼻で笑う。

「そうだ。感づかれて飛ばれ(バックレ)られたら困る。10000メニーだからな。アイツらだってそう安々と出せる金額ではないはずだ」

「じゃあ行ってくれば? 私はもう帰るけど」

「ノリが悪リィな。パーラにたいする思いやりとかねェのかよ?」

「私にたいする思いやりは?」

「……口座番号教えろ。きょう中に振り込んでおく」

「どうも」


 メリットはなにも聞いていなかったかのように、世間話でもしに来たかのように去っていった。


「よし、行こうか」

「……本当に行くの?」

「行かねェとはじまらねェだろ。なに、オマエを巻き込むつもりはねェ。どこか休憩できる場所で座って待っていろ。その間に終わらせてくる」

「……うん」


 パーラは随分と元気がなさそうだった。さらになにかを隠しているかのように。金では解決できない問題を抱えているかのように。


「ともかく、時短だ」


 *


(やかましいな。しょうもねェ金稼ぎで遊んでいるんじゃねェよ)


 そう思いながら、ルーシは扉を蹴り破る。


「こんにちは~」


 そして、拳銃をスカートの裏から取り出す。

 スターリング工業CEO用として渡されたそれは、適当と思われる人間の足を吹き飛ばした。

 そう、撃ったのではない。吹き飛ばしたのだ。


「ポール、ちょっと強めに作りすぎだ……」


 動揺が走るなか、いや、現状を把握できている者が少ないなか、ルーシはキャスターへ拳銃を構えた。


「よう。きょうからオマエは正愛の会へ入会した。会費は10000メニーだ。例外は認めねェ」

「まけてくれても良いと思うけどな~」


 キャスターは恐怖を覚えているようには見えなかった。ルーシの拳銃がその気になれば頭をまるごと吹き飛ばすことをわかっていながら、同時にルーシがその弾丸を放つわけがないことも把握しているのだ。


「まけられねェな。ウチのパーラへ貸した金、きっちり返してもらうぞ?」

「そうなんだ~。まあ……」


 刹那、ルーシは無自覚のうちに攻撃を避けた。


「避けるんだ~。やるねェ。さすがランクA」

「まーな。さて、一瞬で勝敗つけるが、異論は?」

「うん、どうでも良いよ~。どうせキミには勝てないし。もう救急車の準備も済んでるしね~」

「随分と余裕かますな。てめェの上にいるヤツはもっと強ェと?」

「いやァ……そういうことでもないんだなァ~。キミはたしかに強いけど、この学校の陰謀をまったく知らない。そう簡単にMIHの闇を潰せるとは思わないほうが良いよ~」

「そうかい……」


 決着など一瞬だった。キャスターのランクはB。ルーシは名目上ランクAのランクS。勝敗なんて、闘う前から決まっている。

 キャスターは壁に叩きつけられ、されどニヤニヤと笑いながら、満身創痍のはずなのに、彼はルーシへ向けて宣言する。


「なるほど~。強いね~。こりゃウィンストンさんでも無理そうだね~。でもさ……負け惜しみに聞こえるかもしれないけど、ボクを潰したくらいでなにかが変わるわけではないんだよ~」

「学生どものマフィアごっこに陰謀もクソもあるかよ。それに……なにかが変わることは問題じゃない。私は10000メニーを回収しに来たんだ」


 ガタガタと震える、コカインパーティーに勤しんでいた生徒たち。総計すれば回収できるだろう。


「有り金全部出せ。痛てェ目にはあいたくねェだろ?」


 *


「ほら」


 ルーシは100メニー札を101枚パーラへ差し出した。


「あ、ありがとう……」

「なにか浮かねェ顔しているな。他にも問題が?」


 口を噤んだ。



「ま、良いや。それで、ひとつ考えたことがあるんだ」

「……なに?」

「私たちで派閥を立ち上げよう。あのヘラヘラした野郎がいうには、この学校には学生どものマフィアごっこでは収まらねェ陰謀があるらしい。なら、こちらも攻撃と防御を行えるようにすべきだ」

「そんなことしたら──」


 パーラは卑屈なほどに怯えていた。ならば無理強いも重要である。

 ルーシはメリットとメントへメッセージを送る。


「旗揚げは4人だ。私、オマエ、メント、メリット。メリットは知らねェが、メントとオマエは親友なんだろ? だったらオマエを守ろうとして私の提案に乗るはずだ」

「私なんかのために……」


「らしくねェこというな」ルーシはパーラの目を優しく見て、「自分に自信を持て、なんて戯言はいわねェ。オマエはいい方はワリィが落ちこぼれだ。だが、私がいるんだぞ? メントがいるんだぞ? メリットがいるんだぞ? なにも心配する必要ねェ。どんなネイルがかわいいかだけ心配しておけば良いんだ」


 メントとメリットから返信が返ってくる。答えはただひとつ。「了解」だった。


「さてと、やることねェな。空き教室で……ゲームでもするか。いまゲーム機持っているか?」

「持ってるよ~!! ほら!!」


 薄型の携帯ゲーム機のようだった。小型のコントローラーがふたつ。

 そしてなにより、パーラがようやく普段の明るい態度になったことが、ルーシは嬉しかった。

閲覧ありがとうございます。

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