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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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人に優しく

 ルーシとパーラは学校の裏側を歩いていた。

 MIH学園においては、18歳以上の生徒は喫煙所における喫煙が認められるが、それ以外の生徒──特に実力がない生徒は、このひと気が少ない場所にて煙草を吸っている。そのため、煙たい。

 しかし、18歳以上でないと喫煙は禁止であるという法律を破っているような者たちは、それだけでは収まらずに他にも犯罪を行っている。


「……懐かしいな。昔はこういうところでクスリを売っていたものだ」

「ん?」


 ルーシは生前の母国語でそうつぶやき、そんな言葉を理解できるはずもないパーラは頭を傾げた。


「ああ、なんでもねェよ。さーてと」


 パーラは至って普通の落ちこぼれ学生だ。そのため、野蛮な行為には慣れていない。

 だが、ルーシにそんな御託は通用しない。


「こんにちは〜」


 そういい、ルーシは公然と薬物取引を行う生徒の顔面を、壁へめり込ませた。


「えっ!? ルーちゃん、どういうことっ──!?」

「目には目を歯には歯を。素晴らしい言葉だ」


 答えになっていない。パーラはあまりにも突然起きた異常事態に、ようやく脳を追いつかせて、足が震えていることを知る。


「よォ。ウィンストン・ファミリーについて知っていることあるか?」


 ……意識不明だ。やらかしてしまった。


「あー、失敗した。もっと平和的にいかねェとな」

「る、ルーちゃん……」

「どうした?」

「なにもこんなことしなくたって……」

「らしくねェな」ルーシはニヤリと笑い、「こんなことしなくて良い? 違うな。こんなことされるヤツが悪リィんだよ。私はなにも間違っちゃいない」


「で、でも……」

「言いてェことはわかる。嫌だよな? 平然と暴力が目の前で起きて、暴力のみで物事をすべて終わらせようとしている。だがな……」


 ルーシは気絶した生徒の煙草を抜き取り、それを咥え、

「闘うってのはそういうことだ。私は簡潔に進めているに過ぎない。わかったら、すこし隠れていな」


 裏側に溜まっていた生徒は2〜30人といったところか。この場所にはこの場所のルールがある。暴力沙汰などもってのほかだ。なので、彼らの標的はルーシのほうへ変わった。


「さてと……いちいち下っ端の相手で体力を使うわけにもいかねェ。ここはどんな法則を働かせるか……」


 存在しない法則を操る。魔術は存在しても超能力は存在しない。ルーシの能力は超能力。つまりなんでもできる。その気になれば、地球ひとつ吹き飛ばすことだってできる。地球を滅ぼす法則を働かせれば良いからだ。

 だが、体力制限もある。こんなところで体力は使えない。

 そして、傍らには、か弱く幼い妹のように震えるパーラがいる。なので、派手な法則を操れば、パーラへも攻撃が流れかねない。


「てめェ!! なに考えてんだクソガキィ!!」


「声を潜めろ、馬鹿野郎」


 そう言い、ルーシは指をパチンと叩いた。

 そのときには、決着がついていた。


「気がついたことがある。存在しない法則を操れば体力を消耗するが、それを介さずにこのような翼を広げて単純な刃物にしてしまえば……まるで消耗しねェ」


 ルーシの背中には、銀鷲の翼が広がっていた。

 もともとは黒鷲の翼だったのだが、それはあくまでも追い詰められたときに発生させることにした。

 黒鷲と銀鷲の違い。

 黒鷲はルーシの能力を好き放題操れるものだ。前世においても、この翼が主軸となって動いていた。だが、これを展開してしまうと、体力の消耗が激しい。この世界には存在しない超能力を無理やり引っ張り出しているからだ。力を抜いて一時間。全力で10分。最高火力で1分持つかどうかである。

 銀鷲。こちらの概要はよくわかっていない。MIHへ入学する際、魔力がなければいぶかられるので、アル中メンヘラに魔力を注入してもらった……ようだが、その所為かうまく法則を操れない。その一方、翼そのものの火力は増している。黒鷲ではビル群を切り裂く程度だが、この状況ならばビル群を木っ端微塵にできるだろう。


「まあ……さすがにウィンストン・ファミリーのトップクラスになれば、黒鷲を使う可能性も否めんが」


 そうちいさくつぶやいた。


 うめき声が聞こえる。ルーシは気にする素振りも見せない。こんな声には慣れているからだ。都会の喧騒のように。

 しかし、パーラからすれば慣れないのも事実である。


「だ、大丈夫!? いますぐ先生を……いや、救急車!? 一体どうすれば……」


 ルーシは慌てるパーラを気にせず、

「よォ。携帯借りるぞ」

 適当に選んだ誰かから携帯を奪う。


「あー……。誰が一番偉いんだ? 最短で終わらせてェな。こういうときは……」


 ルーシは即座にメリットへ電話をかけた。


「もしもし。タトゥー代出してやる約束だったよな? だったらひとつだけ条件がある。いまから私のいる場所へ来い。そして携帯の中身を分析しろ」


 手短に終わらせ、ルーシはパーラのフォローをする。


「パーラ。人から奪う覚悟があるヤツは、人から奪われる覚悟もしなくちゃならねェ。奪うと奪われるは表裏一体だ。私のやったことが怖ェか?」

「…………うん」

「そう思うのは自由だ。だが、私が暴力で解決するのも自由だ。そして、オマエを助けるためにやっていることも理解しろ。わかったな?」

「……ルーちゃんのやり方は野蛮だよ」パーラは絞り出すように、「確かにこの人たちは悪いことをしてる。薬物の売買をしてることくらい分かってる。私から金を奪ったってことも分かってる。だからって……こんなに痛めつける必要性なんてない」

「ふん……やはりオマエは優しいヤツだ。裏表がない。きっと私のことを見捨てることはできないだろうし、しかし同時にコイツらのことも思いやっている。……オマエはそのままでいろ。人に優しくできるのは、ひとつの才能だ。私はいつの間にか……人へ優しくすることを忘れてしまったんだな」

「……違うよ」


 ルーシはらしくもなく怪訝そうな顔になった。


「ルーちゃんはとっても優しい人なんだよ。だって私のことを見てくれるんだもん」

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