告白
区切るのミスりました。一〇〇〇字程度となっております。申し訳ないです。
「へェ……」
ルーシは興味があるようだった。彼女はパーラのことを知らない。彼女はきょう入学してきたからだ。知っているほうがおかしい。
だから、そこがトラップになる。
「メントちゃん……その話は」
「言わないさ。でも、いつかは知らないといけねえ。オマエを受け入れる覚悟があるんなら、オマエを親友だって騙るなら、オマエを知ってないといけない」
パーラは言ってほしくなさそうだった。当たり前だ。その内容は極めてデリケートなものだからだ。
「ま、飲もうぜ。そういう細けェ話はあとでもできるだろ? 大丈夫。私はどんなこといわれても引かねェさ」
「……そもそも酒は好きじゃねえ」
「アレルギーか? 珍しいな」
「いや、酒を飲ませて聞き出そうって魂胆が気に入らねえ」
「そうかい……。なら、私たちは勝手に飲むからな」
*
2時間後。
色々あった。簡単にいうと。
まず、アークが真っ先に潰れた。いまとなれば会話も満足にできない。「あー……」か「んー……」しかいわなくなっている。
続いてパーラ。こちらも酔いつぶれている。会話はできるが、どこまでも一方通行だ。「このゲーム知ってる?」と聞いてきたので「知らねェな」と答えれば、「お酒っておいしいね!!」と応答する。しかもボディタッチがやたらと多い。とにかく胸と尻を触られる。風俗店でもないのに。
そしてメリット。こちらは比較的酔っていない。ただ、ルーシが破ったシャツから垣間見えるタトゥーをあからさまにじろじろと見つめてくる。
最後にメント。宣言どおり一滴も飲んでいない。しかし、パーラがうっかり口を滑らせないように注視しているように見えた。
「ルーちゃん……愛してるよ」
「私も大好きさ」
「抱きついて良い?」
「どうぞ」
「んー……ルーちゃん、ちょっと煙草臭いね。でも、良い匂いがする」
別に減るものでもないので抱きつかれているが、抱きつき方がおかしい。女子同士のスキンシップを超えている。対面座位みたいな体勢だ。
「オマエこそ酒臭せェぞ? まァ、どこぞのアホに比べりゃかわいいものだが」
「酔ってるんだもん……キスして良い?」
そこでメントが咳払いをした。
「……おい、ルーシ。言っとくけどな、パーラにキスするんじゃねえぞ?」
「なんでだい? いわゆるキス魔ってヤツだろ? たまにいるんだ。酔っているときにキスばかりせがんでくるヤツが」
「……いや、そうじゃねえんだ」
「そうじゃねェ? じゃあどういうことだい? 発情期にでもなるのかい?」
「……パーラ、帰るぞ。こんなヤツにオマエを任せられねえ」
「……嫌だ」
いまひとつ意味がわからない。いや、なんとなくわかってはいる。しかし、パーラは獣娘だ。だから人間の常識は通用しないとも捉えられるため、ルーシも断言はできない。
「だって……」
そんななか、メリットが煙草を咥えはじめる。
「クソガキ、酒が足りない」
「空気の読めねェヤツだな……。オマエ、この修羅場で酒の無心なんてできねェぞ?」
「私のペースを乱さないで」
「オマエのペースなんて知らねェよ」
「てか、タトゥー入れるのにどれくらいお金かかった?」
「……やはり酔っているのか。そうだな、全身で2~3万メニーってとこか」
「分かった。入れる」
(奇妙奇天烈摩訶不思議。なにをいっているんだ? この根暗は)
「オマエさ、意味わかっているのか? そりゃこの国じゃタトゥーなんてありふれているが、簡単に消すこともできねェんだぞ?」
「いや、入れたいって思ってたし」
「なるほど。誰にも近づいてほしくないと」
「かっこいいから」
(かっこいいから? 本当になに考えているか分からねェ女だ)
「まあ、好きにしろ。私には関係ねェ」
「カネ、貸して」
「あ?」
「3万メニーも用意できない。だからカネ貸して」
「ポルノビデオにでも出りゃ良いじゃねェか。なんなら私が回してやろうか?」
「嫌だ。金貸して。貸してくれるまで私動かない」
ルーシは深いため息をつき、心底呆れたような目つきでメリットを見たあと、ウォッカを1気飲みし、煙草へ火をつけた。
「対価が必要だ。オマエのスキルを説明しろ。それなら貸してやる」
「わかった」
(あそこまで明かさなかったくせに、あっさり明かそうとしているな。本当になに考えているんだ?)
「まあ、良いが……その前に目の前見ろよ。パーラとメントが口喧嘩しているぞ?」
「どうでも良い。アンタが勝手に相手して」
パーラとメントは文字通り口喧嘩をしていた。
ルーシはいまひとつ、ふたりの言葉がわからなかった。ロスト・エンジェルス──通称LTASは訛りが本当にひどい。注意して聞けばなにをいっているのかはわかるのだが、早口でまくしたてられると、正直ブリタニカ語──英語とは思えない。
「ふたりとも落ち着け。というか、なに言っているのか分からねェ。順を追って説明しろ」
「「……実は」」
同時に同じ言葉が出た。ルーシは頷き、ふたりをじっくり見る。
「私は……」
「パーラ……本当にいうのか? 後悔しねえとは限らないぞ?」
「……うん。もう後悔なんて腐るほどしてきた。だから、もう言う。ルーちゃんだったら私を幸せにできると思うから」
(重てェ話なのは確かだな。だが、いまさら驚くような性格でもねェんだな、おれは)
「そうかい。なら言え。どんなことをいってきても、私はしっかり受け入れる。約束するよ」
パーラの口は震えていた。いや、身体が震えていた。目には涙がたまり、そして頼りない身体がいまにもルーシへのしかかってきそうだった。
だからルーシは、パーラを抱きしめた。男時代を考えれば、こういうことをすれば相手は簡単に心を開くことをわかっているからだ。
「ルーちゃん……私はね……」
ルーシのちいさな胸のなかで、小刻みに震えながら、パーラはとぎれとぎれの言葉を探し、やがて告げる。
「ルーちゃんのことが好きなんだ……。恋愛的な意味で」
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