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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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救いようのない生物

 ルーシは私服に着替えていた。

 私服。女ものを着るのは屈辱だ。何度着ようが、過去の屈辱を思い出すからだ。


「……タトゥーが隠れて、暖かいヤツだな。となれば、これか」


 黒いジーンズに暗い青のチェスターコート。インナーは白のセーター。到底10歳児が着るような服装ではないのは確かである。


「たまには歩いていくか? いつも車で行っているし」


 カラオケ店とルーシたちのオフィスはそこまで離れていない。最低限の護衛がいれば大丈夫だろう。

 と、一瞬思うが、


「護衛もいらねェか。どうせおれよか弱ェヤツだし」


 ルーシの護衛となれば、クールかポールモールくらいしか務まらない。そんなわけでルーシはオフィスから出ていく。


「いやー、空気がきれいだな。そこらへんに車が走っていて、そこら中で煙草吸っているヤツがいるのに、シベリアみてーに空気がきれいだ」


 ロスト・エンジェルスの喫煙率は40パーセントほどらしい。時代を鑑みればかなり少ないほうだろう。しかし、前世に比べれば喫煙者は多い。故に、副流煙が満遍なく広がっている。


「……お、強盗(タタキ)に向いてそうだな。伝えておくか」


 あまりひと気のない場所に宝石店を見つけた。強盗してくださいとでもいいたいのだろう。


「なるほど。愉快痛快。しかしよく知らん街だ。カラオケが終わったら、アイツらにおすすめの飲み屋でも……よくよく考えたら、カラオケって日本発祥じゃねェか。本当になんでもありだな、ここ」


 そもそも学生におすすめの飲み屋──パブを聞くことが変な話しとは思っていないらしい。

 そして、歩き煙草はしない主義であるルーシは、カラオケ店の前で煙草を咥える。


「ま……バレても良いんだが」


 だいたい、パーラは獣人だ。ニオイには敏感だろう。メリットは喫煙者だからたいして気にしないと思うが、もうひとりの少女とアークはあまり良い顔をしないはずだ。


「どうしてもやめられん。もうクスリをやるつもりはないが、煙草だけはなァ」


 そんなことをつぶやいていると、ルーシは見慣れた者を見つける。


「よォ。アル中」

「……ルーシさん。一生のお願いです。あともう1本飲ませていただけないでしょうか?」


「オマエの一生は長そうだしなァ……。じゃ、あれだ。金渡すからおれたちの酒買ってこい。あとこれ」ルーシは携帯の画面で煙草を見せ、「おまけで飲んで良いからよ」


「ほ、ほんとうでしゅか!? い、い、いいますぐいきましゅ!!」

「依存は恐ろしいな。じゃ、用意スタート」


 ルーシから現金を受取ると、ヘーラーはまさしく全力疾走で酒を買いに行った。


「さーて、誰に電話かけるのがおもしれェかな?」


 アーク。パーラ。メリット。と、あとひとり。


 こういうときはルーレットだ。ルーシは空に向けて拳銃の弾を撃ち出した。


「空砲か。じゃ、パーラだな」


 ルーシはパーラへ電話をかけはじめる。あのおしゃべりな子だ。たぶん電話先でもうるさいだろう。

 というか、通報される前に店へ入ったほうが良い。住民に関心はなさそうだが。


「ま……良いや。パーラへ電話だ」

『もしもし!! ルーちゃん!? いまめっちゃ盛り上がってるよ!! なんかね、メントちゃんは流行りの曲歌うんだけどめちゃ音痴で、メリットちゃんはうまいんだけどよくわかんない曲で、私はアニソン歌ってるよ~!! あとね、なんでアークくん連れてきたの? 別に私アークくんくらい人畜無害な子だったら気にしないけど、アークくんなに喋っていいかわかんないみたいで、ずっと携帯見てるんだ~。だからルーちゃんいますぐ来られる?』


 怒涛の勢いで言葉を羅列された。だが、内容はわかりやすい。ルーシは淡々と返事をしていく。


「まず、私は10歳だから、ちょっと仲いい女先輩に酒買ってきてもらっている。その先輩はもうじきくるから、そうしたらすぐ行く。酒、得意かい?」

『そもそも飲んだことない……』

「なら気分転換にもなるだろ。まずは軽いお酒から飲みな。私たちはアーク以外全員女だから、別に気にする必要もない。アークはもう女と遊ぶのも嫌らしいからな。だからま、ちょっとだけ待て」

『わかった~! ルーちゃん待ってるね~!』

「あいよ」


(さて、あのアル中がどれくらいで買ってくるか……って、もう買ってきやがった。模範的な病人だな)


 ヘーラーは満面の笑みでこちらへやってきた。ビニール袋には大量の酒。度数が低く飲みやすいものから、ルーシ程度にならなければ飲めないような酒まで。ついでに煙草も買ってある。ルーシとメリット用だ。


「ご苦労。ほら、ウイスキー700ミリリットルだ。もう好きに飲め」

「よっしゃあ!! いまからイッキしますね!!」

「……オマエを更生させるのは、猫にプログラムを教えるようなものだな。おれは18歳で死んだが、オマエは人間年齢で25歳なんだろ? 7歳年下からこんなこといわれて屈辱じゃねェの?」


 ヘーラーは即座に地面へ嘔吐物をぶちまけた。いよいよ救いようのない生物である。


「えーと、よく聞いてなかったんですけれど、なにか言いました?」

「いや……もう良い。帰れ。これ以上飲んだら目に針ぶっ刺すからな?」

「えー、もっと飲みたいです!」

「……オマエ歯磨きサボったろ? しかも吐いたしな。口臭せェからしゃべるな。これ以上なにかしゃべったら、腹に穴開けるからな?」

「ルーシさんは優しいので、そんなことは──」


 ルーシの背中が光る。本気で殺されると感じたのか、ヘーラーは一目散に逃げていった。


「……もう1本吸ってからいこうか。別に喫煙者だってバレても良いんだが、さすがにこの見た目で煙草は、なぁ」


 裏路地へ入り、ルーシは紫煙に巻かれる。

 そして、カラオケへと向かう。

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