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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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裏社会に潜む者

 高級車である。黒塗りセダン。後部座席にはテレビまでついている。


「こりゃあ、やりすぎじゃねェか?」

「アニキのアネキにはこれくらいしないといけないんっすよ。ポールモールさんからも口酸っぱくいわれましたしね」

「正論だが、こちらまでマフィアの1員だって思われるだろうが。一応隠しているんだからよ」


 ポールモールの部下──つまり、クールの子分は寂しげな顔になる。


「わかったよ。オマエらの悲しむ顔はみたくねェ。さて……」

「きょうはいよいよ(みやび)さんと会うんですよね?」他の部下が話しかけてくる。

「ああ、ついにクールから鬼電きてな。どうやらよほど私が必要らしい。雅のアホの話は聞いたが、一度おさらいをしておくか」


 雅。イースト・ロスト・エンジェルスで屈指の兵隊を持つ、帝ノ国(みかどのくに)からロスト・エンジェルスへ渡ってきた、前世でいうヤクザだ。総兵力は3000人。ルーシ傘下のクール・ファミリーを首班とする「クール・ファミリー」の30倍の兵力を持つ。名前は「サクラ・ファミリー」である。


「雅。コイツは極めて異例な男だ。上にいる連中がみんなくたばったから、本来だったら事務屋で終わっていたコイツが4代目を継いだ。4代目サクラ・ファミリーは、獰猛な兵隊が多いものの、その古参はまるで雅に忠誠を誓っていねェ。そこに漬け込む弱みがあると思うが……オマエはどう思う?」

「ヤクザはメンツの生き物だと聞きますが、実際この国でやっていくんなら、メンツなんて二の次ですよね。だから雅さんから離脱する人間が出てきてもなんらおかしくはない。しかしひとつ気になることは……」

「クール・ファミリーとサクラ・ファミリーじゃ、断然後者のほうが格上。我々のレンドリースでシマの拡大を円滑に進められたとはいえ、傘下に入る必要なんてまったくない。むしろスターリング工業のほうが傘下にいたほうが普通だ」


 スターリング工業。現状、傘下にいるのはクール・ファミリーと寂しい状態の、ルーシをCEO──最高指導者として成立するマフィアだ。そんなことは雅もわかっているはずなのに、彼はあえてスターリング工業の傘下へ入ることを了承した。だから疑念が生まれるのだ。


「……そりゃ、アネキが10歳の幼女だって知っていれば、乗っ取ることも容易いと考えたんでしょう」


「だろうな。バカの考えることはすぐわかる。周りのLTAS(エルターズ)の連中だって気に入っていねェんだろ」ルーシは退屈気に、「あのクールが誰かの下へついたことに。クールは狂犬みてーなものだ。噛んだら死ぬようなヤツに絡もうとするヤツなんていない。しかし、野郎は、形式上とはいえ10歳児の配下になりやがった。今回の幹部会はほかの用事があるからすぐ終わらせるが、雅のアホに上下関係を教え込まないとな?」

「……そうであってほしいですが。ポールモールさんから渡すように頼まれていた小型拳銃です。どうぞ」

「ご苦労。素晴らしい出来だな。CFOの座を渡すには充分だ」

「ポールモールさんがCFOになるんですか?」

「いや、サクラ・ファミリーを見てからだな。雅のアホを支えるヤツが優秀なら、ソイツにCFO──最高財務責任者か補佐役をやらせるつもりだ」


 ルーシは組織の長として、人をうまく扱わなければならない。事実上のNo.2になるクールには『姉弟』という役割と『最高執行責任者(COO)』を与えるつもりであり、それは決定事項だが、ほかの人間には平等にチャンスを与えなければならない。


「今回出席する者は?」

「アニキとポールモールさん、雅さんに彼の若頭である(みね)さんが出席する予定です。それにアネキが参加する形ですな」

「旗揚げに5人とはちょうど良いな。ま、もうじきつくんだろ? 新生スターリング工業の旗でも描いておくか」


 ルーシは限りなく薄いタブレットとペンを持ち、「金鷲がハンマーを持つ」絵を描いた。あたりには大雷鳴。昔をリメイクした形である。


「絵がうまいですな」

「ちょっとした特技だ。この絵の前では、私は学生でない」


 そんなわけで、「スターリング工業オフィス」へたどり着いた。黒いスーツを着た男女が、ルーシの車が近くによった瞬間「お疲れさまです!!」と怒号にも近い大声で叫ぶ。


「あーあ。時間ねェな。制服のままで良いか」


 ルーシの制服はスカートがやや長めだ。理由は単純。拳銃を隠すためである。


「とりあえず行ってくる。あとでカラオケ行くらしいから、待機していてくれ。お駄賃だ」


 ルーシは運転手と護衛にそれぞれ2000メニーを渡す。日本円にして20万円ほどの小銭だ。


「ありがとうございます。良い結果、お待ちしております」

「任せとけ」


 ついたところで、ルーシが行うことはほとんどない。煙草を取り出せば誰かが火をつけるし、構成員の位置的にエレベーターがどこにあるかはすぐわかる。


「CEO。10階です」

「ご苦労」


 そんなわけで「取締役」いる、あるいはこの場で取締役になる人間との会合だ。


 ルーシはあえて入り口には入らず、会話を聞いていた。


「クールさん、アンタなめるのもたいがいにしろよ? なんでアンタんとこのボスは来ないんだ? ワシだって時間が多くないんだ。帰らせてもらうぞ?」

「落ち着いてくださいオヤジ。ルーシCEOは学生をでもあるので、すこし遅れても仕方ないでしょう?」

「だいたい、学生をしているのがおかしいんだ。ワシの親分になるかもしれない人間が、高校生ごっこ? 人をなめるのもたいがいにしていただきたい。どうにかいったらどうなんです。クールさん、ポールモールさんよォ!」

「あ?」ポールモールは語気を強める。


 そして雅は黙り込む。なんて情けない人間だろうか。雅は50歳を過ぎているのに、30歳にもなっていない若造の威嚇で黙り込むような小物だ。


(おもしれェな。雅は予想どおり小物だったが、傍らにいる黒人の峰はこの会談の意味を理解している)


 そして、ルーシは扉を静かに開く。ルーシは上座に座り、堂々と宣言する。


「雅さん、峰さん、遠いところからわざわざご苦労だった。私がスターリング工業CEOのルーシだ」


閲覧ありがとうございます。

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