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もしも最強の無法者が銀髪碧眼幼女になったら  作者: 東山ルイ
第二幕 実力至上主義、MIH(メイド・イン・ヘブン)学園
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刹那主義で居たい

 ロスト・エンジェルス。一応、時代は18世紀末期。そのときの煙草事情なんて詳しくは知らないが、すくなくとも年齢確認という概念はなかったはずだ。それなのに、ロスト・エンジェルスは未成年喫煙に厳しいという。成人が18歳であるため、現在16歳か17歳で童顔のメリットでは購入すら難しいのも事実だろう。


『……間違えて14ミリとか買ってきたら、すぐ帰る』

「安心しろよ。私はこう見えて結構優しいんだ」

『どの口がいうんだか。さっき焼き入れてた連中、ガタガタ震えてなにもできてないのに』

「ありゃ見せしめってヤツだ。それに……どうせ派閥ってヤツのメンバーだろ?」


 そういった瞬間、なにかワクワクしたかのような、恋する乙女のような顔をしたパーラの顔色が変わった。

 ルーシはそれが気になり、一旦携帯をおいて彼女へ話しかける。


「どうした?」

「あ、いや、うん……。私、派閥が好きじゃないんだ。……シエスタ・ファミリーとフランマ・シスターズは好きなんだけどね。それ以外はどうしても……」

「……いじめられているのなら、すぐに言えよ?」


 ルーシらしくもない台詞だ。昔のルーシならば、パーラを適当に口説いて適当に捨てていたのに。女なんてその程度の立ち位置としか考えていなかったのに。散々苦痛を味合わされ、その復讐のごとく女を操ってすべてを奪っていたのに。それなのに、ルーシは不意にパーラを助けようとしてしまった。


『へえ。意外と優しいところあるね』メリットは小バカにするような声質だ。

「うるせェ。私だって分別くらいわきまえている」

『ま、色々とわかった。じゃあまたあとで会おう。クソガキちゃん』

「ああ、またな。根暗ちゃん」


 その折、予鈴がふたたび鳴った。ルーシはどこか物憂げな顔をするパーラをあえて放置し、携帯によるスターリング工業社員への業務連絡で1日目の学校生活を終えたのだった。


 *


「ルーちゃんっ! 帰ろ!」

「あ、ちょっと待て。完全に忘れていたことがあった。すぐ終わるだろうからついてくる?」

「良いよ! なになに? 友だち? 男の子? それともキャメルちゃんとお話するの?」

「いや、もっとひどい悪夢みたいなヤツさ」

「?」

「ほら」


 ルーシとパーラは廊下を歩き、3学年用の教室のひとつにたどり着く。

 そして、そこへは、見えない壁があるかのように無視される新入生がいた。


「……ああ見ると哀れなものだ。25歳が18歳といっしょに授業受けているんだもんな」

「ん? なんかいったルーちゃん?」

「いや、なにも」


 もっとも、当人は気にしていないようだった。なぜならば、


「ちょっと待てアホ。なんで学校にスキットル持ってきているんだ? 没収だそんなもん」


「ルーシさん! それはあまりにも無慈悲過ぎます! ほら、このお酒さんだって私に飲まれたがっていて……」

「ばーか、死ね」不意に出た言葉にもへこたれないヘーラーを見て、「……そんなに飲みたきゃせめて家へ帰れ。きょうはウイスキーの700ミリ瓶飲んで良いからよ」

「ほ、本当でしゅか? 一気飲みしても良いと?」

「好きにしろ」

「やったー!!」


 ヘーラーは一目散に走ってどこかへ消えていった。


「……酒で調教できる天使。笑い話にもなりゃしねェ」


 スキットルを学校に持ち込んだアホへのフォローが終わり、ルーシはパーラのもとへ戻っていく。


「る、ルーちゃん。いまの人って何者?」

「あー……親戚みたいなものだ。あまりにも頭が弱いから、私が面倒を見ている。まあ気にすることはない。二度と会う必要もない」


 ルーシの口調に、なにか触れてはいけない感覚を感じたのか、パーラは「そうなんだー……」と弱くいうだけだった。


「さて、カラオケ行くか。でも、3人だとすこし寂しいな。そのひとりは本当に来るのか?」

「うん! メントちゃんは絶対に来るよ! だって他に友だちいないし!」

(思ったことを口に出すのは良いことじゃないな。まあ、コイツにここまで言われるのなら、やはりそういう人間なんだろう)

「そうかい。……あ、携帯がうるせェ。先にメリットとメントと合流しておいてくれ。これがメリットの連絡先だ」

「うん! 待ってるよ~!」


 そんなわけでパーラをおいて、ルーシは学校の裏側へ向かう。目的は当然ニコチン・タール補給である。


「……ッたく、世間知らずのクソガキどもの相手は疲れるな。だが……悪いものでもない。もしかしたらおれもヤツらみてーにクソガキやっていたかもしれねェしな」


 意外なほど本心だった。ルーシは前世にて12歳になるまでは、ここにいる学生たちのようなことをやっていたからだ。12歳をもってすべてが狂ったが、もしもそれがなければ、ルーシも気楽に学生をしながら程よく遊び程よく勉強をしていただろう。


 もっとも、金持ちが嫌いなのも事実だし、金持ちが生んだ子どもなんて無条件で殺したくなるような精神構造ではあるが。


 それでもなお、悪い気持ちがしないのもまた本心だ。強がって1ミリの煙草をふかす女子。必死に兄を越えようと躍起になりながらも、実際のところは兄へ恋愛感情すら抱いている妹。凄惨ないじめを受けるわりには元気そうな、女にしか見えない少年。そして、おしゃべりで頭が弱くても、なぜか憎めない不思議な獣娘。


「ま……楽しく学生やらせてもらうか。行く義理なんてねェが、せっかく異世界まで来たんだ。どうせだったら刹那思考でいたい」


 そうしてルーシは煙草を咥えて学校の広大な裏側へ来る。そこには、やはり間抜けな面をした男女が数十人いた。おそらく先ほどの報復だろう。だが、たいした連中がいるとも思えない。


「よォ。わざわざ輪姦されに来るとは良い度胸してんじゃん」

「よォ。わざわざ集団自殺とは随分仲が良いじゃん」


 ルーシは煙草が折れないようにソフトパッケージにそれを入れる。

 そして、虐殺がはじまった。誰が虐殺されるかなど、考える必要もない。人数が多すぎてルーシも把握し切れないからだ

閲覧ありがとうございます。

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