大反撃、レーザー兵器に意志はなく。
当然、撤退はできない。それはクール・レイノルズの政治生命の死を意味するからだ。型にはめるつもりが、ドツボに嵌まっていく。軍首脳は、悲痛な面持ちでうつむくことしかできなかった。
そして、我が方に長期戦へ耐えうるだけの燃料は存在しない。どの機関に問いただしても、3ヶ月が限界だという結果が出る。
そもそも、隣国かつ世界第1位の魔術師を抱えるブリタニカ及び、広大な国土を持ち燃料がなければ近づくこともできないブラシリカの2カ国相手に、短期決戦を行うというドクトリン自体が間違いであったのだ。
そのような絶望的状況で、軍幹部が囁くように言う。
「大統領……、セブン・スターズのひとり、峰少佐からの通信が入りました。峰少佐はブラシリカに展開していますが、ブリタニカの艦隊を撃墜したとのことです」
僅かな希望が差し込む。軍幹部は、声のトーンを上げる。
「そして、ブラシリカにアーク・ロイヤル少佐率いる〝ギガバイト〟大隊を含む方面軍が、沿岸付近へ近づき始めたとのことです。我々はまだ負けていません!」
あらゆる悪手を打ちながらも、運という名の天秤が揺らめいた。クールは安堵したような表情になり、ネクタイを緩めた。
「そうか……。なら、ブラシリカでの作戦に注力しよう。ロスト・エンジェルスはこれより、大反撃に打って出る」
世界第3位の人数の魔術師が、近未来技術とともに世界を燃やし尽くすまで。クールは腹積もりを決め、それに幹部たちも従うのだった。
*
ブラシリカは確かに広大な領土を持つ。ただ、ゴールデンバットを始めとする精鋭部隊が、あんなに簡単にやられるものか? ルーシ・レイノルズの疑念とは、すなわちそこだった。
彼女は、空軍が提供する映像を何度も凝視した。この情報は、沿岸の近くにいるルーシたちにしか得られない。魔力の濃さが邪魔し、本国の連中には分からないのである、
揺れる原子力空母の中で、ルーシは食事も摂らずになにか理由を探す。
「んん?」
ある違和感を覚えたルーシは、映像を拡大する。
「なるほど。こりゃあ、200年先の軍隊でも厳しそうだ」
ルーシが見たのは、広大なブラシリカの森林地帯に展開する無数の軍勢だった。それは単なる兵士ではなく、魔術師の軍団だった。ブラシリカ軍は、予想を遥かに超える数の魔術師を集結させていたのだ。
「ポルトゥス王室も必死だな。いや、ロスト・エンジェルスという忌み子を潰すために、ブリタニカが本気なのか? ともかく、厳しいね」
ルーシは艦橋へ向かい、通信士に命じた。
「本国へ緊急通信。ブラシリカ沿岸部に、少なくとも5万の魔術師部隊を確認。おそらく、ブリタニカからの援軍。映像データを添付して送信しろ」
「了解しました……」
通信士が面食らったような表情になったことなど、ルーシには関係ない。
「戦略を見直さないと、私たちも死滅するだけだ」
映像が本国へ送られるまでの間、ルーシは状況を整理した。ゴールデンバットの敗北は不思議ではない。あれだけの魔術師軍団を相手にしては、どんな精鋭部隊も壊滅するだろう。
と、なれば……、
「あぁ、それと。〝サテライト・ボンバ〟の発射権限を私によこすように伝えてくれ」
「え?」
ルーシはジッと通信士を見据える。「良いから、早く伝えろ」
「承知しました……」
〝サテライト・ボンバ〟は、21世紀でいうところの核兵器のようなもの。宇宙空間より放たれるレーザー兵器だ。一発が、通常弾道ミサイル30000発分の威力だとされる。
「今切らないで死ぬのは、なんの美徳でもない。森林地帯を焼き払うぞ」
使えるものはなんでも使う。そうやって、ルーシたちは勝ち上がってきた。今更その論理を変えるつもりは、ない。




