不穏な傾向
一方、ロスト・エンジェルスは、永世中立の破棄とブリタニカとの戦争を宣言した。両国家は国交を断絶しているため、ブリタニカは中立国のスイス、基ヘルベティアより、その情報を知った。
もっとも、若き最高指導者クール・レイノルズの目的はあくまでもブラシリカの油田。ブリタニカに上陸したところで、仮に占領できたところで、たいした旨味はない。
「さて、戦争の始まりだ。参謀総長、計画を今一度教えてくれ」
「承知いたしました。まず、ブリタニカに展開する哨戒艇は2隻。ミサイル挺は3隻です。また、魔術海洋部隊は5000人展開します。そのいずれも、単独での飛行が可能であるエリートであります」デジタル化された地図をスワイプした。「もっとも、ブリタニカは世界第1位の魔術師大国。たった5隻の船は、あっという間に的にされてしまうでしょう。なので、我が方の生命線となるのは宇宙空軍です。燃費効率の高い戦闘爆撃機『マキーナⅤ』を100機用意いたしました。ただ……」
「ただ?」
「燃料不足は否めません。ブラシリカを3ヶ月以内に屈服させ、その間にブリタニカと講和する必要があります」
「そうだな。だが、こちらの条件を呑ませるには、それなりの戦果が必要だろう。ブラシリカの蛮族どもなど、敵の数にも入らんが……やはりブリタニカの戦意を削ぐことに腐心してくれ」
「承知いたしました」
*
戦争開始から3日間が経過した。
「そういえば、あまり報告を受けていないな」
クールがそうぼやいた頃、
3つの軍の参謀総長は、青ざめた顔で大統領執務室へ入ってきた。
「どうした?」
「報告します……。ブラシリカに展開されていた原子力潜水艦が大破しました。宇宙通信によりますと、3000人の海洋部隊のうち、2000人が戦傷を受けたと」
「侮っていたな。航空隊を出さなかったのは失敗だったようだ。なら、原子力空母にマキーナⅤと魔術特別部隊を乗せて、ブラシリカへと向かわせろ」
「しかし大統領、ブリタニカとの海域でも苦戦が続いています。制空権はどちらも譲らず、制海権はブリタニカが圧しており……大西洋に空母を出せるとは到底思えません」
「そうか……。であれば、セブン・スターズの出番だ。有事に備えて、海外領土から連中を本国へ帰投させただろ?」
セブン・スターズは、軍集団と同等の破壊力を持つ。もちろん人間である以上、体力切れや魔力切れがあるものの、それを鑑みてもロスト・エンジェルスの切り札だということには変わりない。
「分かりました……。峰少佐とアーク少佐をブラシリカに展開。タイラー中佐をブリタニカへ繰り出します」
理論上、軍集団が総じて5個できた。
一方、彼らが戦線の再構築に失敗し、海軍及び航空隊が壊滅したら、この国は破産する。
クールは、目の前に置かれたケースをジロッと見つめる。このケースには、ロスト・エンジェルスの最終兵器〝サテライト・ボンバ〟の発射機能があり、宇宙からのレーザー攻撃で複数の都市を地図上から消し去る代物だ。
ケースを指差す。「肩の力、抜いていけよ。いざとなれば、これで終わらせてやる」
*
ルーシ・レイノルズは、あと1時間以内に出撃するアーク・ロイヤルと、港で釣りしていた。
「釣りって、あまり面白くないな」
「なんで僕を誘ったのさ。これからブラシリカ方面に出向かなきゃ、なのに」
「あぁ。私も着いていくからな」
「は?」
意図的に答えなかった。「あーあ。もしサテライト・ボンバを海域に撃ったら、魚さんはどうなっちゃうんだろうな」
「いやいや、ルーシって民間人……というか子どもだよ?」
「そりゃオマエもいっしょだ」
「僕は軍人だけど」
「特殊大隊〝ギガバイト〟の実質的な指示権は、副官にやらせているんだろう? 軍学校を出てから私へ指示するんだな」




