〝大陸はブリタニカから孤立した〟
ロスト・エンジェルス連邦共和国外務省は、連邦情報局と協力しあい、以下のような結論を大統領及び長官たちへ発表した。
・現在、ポルトゥスの王室はブラシリカへ亡命している。ガリアの侵略行為から逃げるためである。
・また、ポルトゥスはブリタニカと〝永久同盟〟を結んでいる。
・当然ながら、ロスト・エンジェルス最大の仮想敵国はブリタニカである。
・よって、ブリタニカが〝ブラシリカの春〟作戦に絡んでくるのは濃厚と思われる。
・現在、我が方にブリタニカと戦争をしながらブラシリカを〝解放〟する力はない。
・そのため、ブラシリカへ戦争を仕掛けるのは得策ではない。外交的な解決を図るべきである。
その情報は直ちに、自宅でのんびり過ごしていたルーシの元へも送られた。銀髪碧眼の少女は、紙巻きタバコから煙を吐き出し、口を曲げた。
「そうかい。ブリタニカが参戦してくる可能性が極めて高いと」
盲点だった。確かに、前世でもイギリスとポルトゥス、基ポルトガルは(半ば形式化していたが)、永久同盟を結んでいた。変にブリタニカを刺激したら、世界第1位の数を誇る魔術師の集団がロスト・エンジェルスへなだれ込んでくるだろう。
ルーシはスマホを取り出し、ポールモールへ連絡した。
「車、用意しろ。今から大統領府でクールと話し合ってくる」
『分かった。ただ、血迷った決断はするなよ?』
「なら、オマエも着いてこい」
『そうするよ』
数分後にリムジンが家前に現れる。ルーシは後部に座り、ポールモールと向き合う。
「さすがに、ブリタニカと事を構えるのは無理だぞ。ヤツら、徴兵制を始めたというし」
「そりゃあ、厄介だ。世界帝国と真っ向から挑むのは無謀だしな。ブリタニカと交戦したら、海外領土からの物資をこちらへ持ってこられなくなる」
「なら、どうするつもりだ? 地中海は今やガリアの海。中東諸国にある原油を獲得するには、ふざけた戦力のガリアを叩かなくてはならんし」
「妙案がある。おそらく、オマエも納得するはずだ」
*
大統領府。普段通りに使用人や役人が働いているのが、むしろ不気味さを加速させていく。
とはいえ、あの情報は極秘中の極秘。彼らのような下役には情報が行き届いていないに違いない。
大統領執務室に、ルーシとポールモールは向かう。
ポールモールはクールと目があった瞬間、おじきした。
「アニキ、お久しぶりです」
「おぉ、ポーちゃん」
握手を交わし、クールはソファーを指差す。ルーシとポールモールはそこへ座った。
「さて、油田確保作戦は失敗に終わりそうだけど、どうしようか」
「クール、私に案がある」
「なんだよ、ルーシ」
「もし、アメリカーナがこちら側に立って参戦したら、ブリタニカは3つの戦線を持つ羽目に
なる。ガリアを始めとする旧大陸の敵対国家、ロスト・エンジェルスというシーパワー国家、更に新大陸のアメリカーナ。ブリタニカにこれだけの戦線を維持できるとは思えないな」ルーシは手を広げる。「なので、今すぐアメリカーナに打診しろ。我々と手を組めば〝海上封鎖〟をなんとかしてみせると」
現在、旧大陸・新大陸はいわゆる〝大陸封鎖令〟に見舞われている。東欧帝国・フリードリヒ公国・オストライヒ帝国などの列強諸国は、ガリアへ敗れた際に領土割譲と強制的な同盟を組まされている。そのため、ガリアの意向を無視できず、ブリタニカの優れた製品が(秘密裏以外で)輸入できなくなっているのだった。
それに対抗する形で、ブリタニカは〝海上封鎖〟を発動した。あの島国の連中は口を揃えてこう言う。『大陸はブリタニカから孤立した』と。
そして、その余波は新大陸アメリカーナにも流れ込んできている。
「なるほど。アメリカーナをその気にさせて、サラッとブラシリカを頂くわけだ」