コール・オブ・デューティ
3人は、マーベリックのテレポートで本社ビルへとあっという間にたどり着く。
「ちょっと着替えてくる。やはりこういう場では、スーツを着たほうが良い」
マーベリックはおじきする。「承知です」
リヒトは破顔を見せた。「おう!!」
CEO専用室に入り、殺風景な部屋で、ルーシは白い長袖シャツとデニムから、スーツへ着替え直す。
「職業病なのか? これって」
そんな疑問ばかり抱え、ルーシはヴェルサイユ宮殿の第一次大戦の講和に使われた部屋を再現した、会議室へと入る。
「よう。ポール、八千代」
白人で黒髪オールバック、高身長で男前な青年ポールモールは、珍しく笑みを見せた。
アジア系で常に狐の仮面をつけている、和服姿の八千代の表情は当然分からない。分からないが、おそらくポールモールと同じような表情だろう。
「さて、かれこれ1年くらい開催していなかった幹部会を始める。早速だが、武人皇帝って連中は3人いると聞いた。連中の持つ戦力を精査した者はいないか?」
マーベリックが手を上げる。「はい。まず、アントワーヌ・ジョアシャンという武人皇帝の持つ戦力は、およそ50万人とされています」
「軍集団レベルか。なら、飛行部隊の数は?」
「10万人ほどです。自力で飛行可能な精鋭部隊人数は、だいたい10000人程度かと」
「それ以外は補助機に頼っているわけだ。しかし、さすが大陸最大の陸軍国家。ロスト・エンジェルスの常備軍の2倍に匹敵するぞ。数だけなら」
ポールモールが手を上げた。「数だけでなく、練度も高い。連中は戦争しまくってるからな。それに……」
「それに?」
「アントワーヌ自身もかなりのタマだ。マーベリックの属す連邦情報局によれば、推定評定金額は15億メニー。これは、我が方の最高戦力ジョン・プレイヤー中将に匹敵する」
「あの化け物と同格か。厄介極まりない」
続けて八千代が発言した。「アントワーヌはエドモン・ダルジャンの軍を崩壊に追いやり、ロスト・エンジェルスへ特攻させた張本人です。投降した兵士も配下に仕組んでいると考えたほうが良いでしょう」
「なるほど。数は正義だからな。とはいえ、あの豚野郎エドモンの兵士が、かつての敵の傘下へ入ったのなら、たいした忠誠心は持っていないはずだ。であれば──」
リヒトが手を広げてルーシの言葉を遮る。「なぁ、社長。もう面倒臭せェから、特別遊撃隊でも出さないか? セブン・スターズの誰かと連隊規模の精兵で、アントワーヌとかいうヤツをぶち殺す。それで良くね?」
ポールモールは呆れ気味に言う。「簡単に言ってくれるな。天才的だよ。じゃなければ、ただの馬鹿だ」
リヒトはきょとんと首をかしげる。「なんで? ポールモールのアニキ」
「仮にアントワーヌ支配区域に侵入したとする。そうしたら、まず補給路を用意しなくてはならない。更に、アントワーヌの支配地域はガリアの東側。この前のゲルマニアでの作戦みたいに、超弩級戦艦を浮かせて速攻で勝負つけられると思ってるのか?」
リヒトの頭に疑問符が浮かぶ。「おれ馬鹿だから良く分かんねェけど、ならロスト・エンジェルスの近くを支配する連中に、速攻作戦かければ良いんじゃねェの?」
ルーシがポールモールより先に口を挟む。「無理だ。大統領府で調べたが、他の武人皇帝が湾岸にかなりの兵力を置いてある。あくまでもガリア内で殺し合いしたいようだ」
こうなると、現実的にとれる手段は限られてくる。
となれば……、
「やはり、オーソドックスに行こう。ポール、クールへ通達してくれ。南アメリカーナ大陸のブラシリカ方面への軍事作戦の用意を」
まず、油田を確保しなくてはならない。連邦国防軍がブラシリカ──ブラジルに圧力をかけ、ガリア及び伝統的に敵対しているブリタニカが支配下におく地中海を避け、南大西洋を横断する。
そして、ブラシリカを保護国化、あるいは海外領土に組み込んだ後、200年先を進む技術で電撃戦を仕掛ければ良い。
……もっとも、この場にいる者は自分たちの力を過信していた。ロスト・エンジェルス内での内ゲバに打ち勝ったことは、取り返しのつかない軽率な行動へとつながっていくのだった。
第十一幕、おしまいです。次章『第十二幕 成功に目が眩んで』(予定)をお楽しみに!!
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