死んだくらいじゃ死なない
ゴールデンバットのぶっきらぼうな態度に、ルーシは全く臆することなく聞く。
「なぁ、ゴールデンバット。オマエってアジア圏出身?」
「アジア? あぁ、アス大陸方面か。そうだな、母方が帝ノ国出身だった」
「どうやってここまで流れ着いたんだい?」
この世界における日本こと〝帝ノ国〟は、当然ながら極東に位置する。この時代、容易く行き来できる距離ではない。だから、何気なく気になって聞いてみた。
「流れ着いたっていうか、母がロスト・エンジェルス軍人の父と結婚したんだよ。海外領土と本国を行き来してるとき、小舟に乗った母が流れ着いたんだと」
「どういう状況だよ」
「さぁ。でもまぁ、そのあと父とアス系の母は結婚した。それで、おれが生まれてきたわけだ。さて、もう行くぞ。アーク」
「あっ、はい」
結局要領を得た回答が引き出せたとは思えないが、ルーシはまたもや暇になってしまった。これならアークへ初手で友だちとの連絡先を聞いておけば良かった、と後悔する。
『ついで、ジョン・プレイヤー中将と峰少佐がおつきに』
その通達が響いた頃、ルーシは怪訝な面持ちになった。
(峰って言ったら、ウチの最高財務責任者……。喧嘩もそれなりに強いはずだけど、座布団的にはポールのほうが格上じゃねェか?)
かがみながら、ルーシはふたりの死角に入り込む。先ほどを繰り返すかのように、ルーシはふたりの背中を叩こうとしたが、
「なんだ、クールの娘か? やっぱり死んだくらいじゃ死なないか」
近づいた途端、魔術かなにかでジョンはそう言い当てる。
彼は振り向き、陽気な笑みを見せてきた。
金髪のオールバック、金のヒゲ、黒いサングラスに強者特有の雰囲気。身長はクールとともに高身長の部類に入る。
「なぁ、峰少佐」
黒人ながら名前は日本風であるが、なんでも自身の組織の先々代にもらった名前だという。スキンヘッドに、スーツ越しでも伝わる体格の良さ。身長もジョンやクールに負けていない。
「えぇ。もはや驚きません」
「驚いてくれよ。退屈じゃないか」
「では、我々は出席しなくてはならないので、失礼致します」
かつてのボス相手に随分愛想がないものだ。まぁ、ジョンはともかく周りに他のセブン・スターズがいたら、色々面倒ではある。
「さて、もう行くか」
他の出席者は『カルティエ・ロイヤル』と『クレーバー』と『タイラー』。タイラー以外は会っても仕方ない上に、つい数日前会ったばかり。なので、ルーシは今度こそ外へ出るのだった。
クールがクレジットカードを貸してくれたので、金銭面での心配はいらない。ルーシは早速流しのタクシーを拾い、メントの自宅の住所を言った。
やがてメントの自宅へたどり着いて、支払いを済ませて外へ出る。
「考えてみりゃ、メントの家くらいしか知らないんだよな」
より正確にいえばパーラの家でもある。ふたりでカネを出し合って、このマンションを借りたらしい。当然、パーラとメントには実家があるのだが、パーラは両親がいなくて、メントはプロ野球選手との父子家庭なのだという。
マンションの扉はオートロックがかかっていた。ルーシは部屋番号を打ち込む。
『宅配便だったら、そこのボックスに入れてください……ルーシ!? なんでオマエ、え、なんで? もしかして呪縛霊!? 嫌だー!! あたし、幽霊が一番怖いんだよ!!』
『メントちゃん、ニュース見てないの? うちも半信半疑だったけど、ほら。ルーシのKIA判定が消されてる』
「というわけだ。幽霊なんて無神論国家には似合わない。入れてくれ」
どうやら、部屋内にはメントとホープがいるらしい。いつもの連中だ。
『……、オマエ。パーラがどうなったか知らないの?』
「知っているよ。ただ、今はどうすることもできない」




