プラズマ
クール・レイノルズは、この国最強と名高い魔術師。一方、彼は国家の最高指導者である。そんなクールがもし殺されたら、ロスト・エンジェルスはもう止めようがない大暴動へと発展していくだろう。
「国内に残っているセブン・スターズは、タイラー中佐のみです……」
「虎の子のセブン・スターズが、ひとりしか残っていないのか。ふたりでも3人でもほしい局面だぞ……チッ。なら、タイラーを呼び出せ。時間のロスはそのまま敗北につながる。さぁ、ロスト・エンジェルスを守ろう」
「了解です」
火の粉が地面に落ちてくる中、ルーシは再び翼を生やして空へ飛び立った。今度は腕の部分に翼を生やしていて、まるで人面鳥のようなスタイルである。
炎の塊と神話に出てきそうな怪物が、ぶつかっている。空中での肉弾戦だ。一撃一撃が、街をにわかに揺らす。
クールはやや圧されているようだった。やはり前線から遠のいて、少し腕が鈍っているのかもしれない。
そして、クールが白兵戦でアッパーされ、一瞬白目を剥いたとき、
ルーシはエドモンに向かって、蹴り技をくらわせる。
「まだ負けたわけじゃないぞ!!」
ルーシは自分を鼓舞するように声を荒げた。
単なる蹴り技──もっとも、魔力を足に漂わせていて、破壊力は大型トラックを軽く地平線の彼方まで飛ばせるくらいに上がっている。なので、ただのキックとは違う。
「……!!」
完全に視覚外から襲われたためか、エドモンは口と鼻から血を垂らしていた。これなら押し切れるかもしれない。
「ルーシ、助太刀なら不要だぞ?」
「なに言っているんだ。私たちは親子で姉弟だろ。水臭いこと言うな」
「まぁな……!!」
さらなる追撃を、とルーシは翼を妖しげに光らせた。すると、空気が一極に集まっていく。それらはプラズマを起こすべく、正確な速度と動きで回転していった。
「よう、エドモン・ダルジャン。オマエ、直接的な攻撃は効かないようだが、間接的ならどうだろうな?」
空気がブォン、と不穏な音を出しながら揺れている。このままではやられる、と感じたのか、エドモンはルーシとの間合いを一気に狭めた。
「貴様……!!」
だが、
「よう、まだおれを倒してねェぞ?」
九尾の狐のように広がった炎の翼を背中に引き連れ、クール・レイノルズはエドモンを地面に立っているかのごとくきれいなフォームで殴った。エドモンは頬を抑えながら、本来の敵を見失う。
クールはなおも追撃をかける。空中にいるので倒れる=地面に落下を意味するのだが、エドモンは見た目どおりタフだ。狼人間のような風貌に、3メートルを越す身長。彼はまだ倒れない。
「まだいけるのか? だが、もう空にいるのがやっとだろ。飛行術式と、その狼人間になる術式の重たさに耐えきれてないみたいだしな」
「それは私が決めることだ。クール・レイノルズ大統領」
「分かってねェな。ここはおれの国だ。オマエの条理は通じねェ」
「ふん。そんな態度は最高指導者に似合うものではない」
「あぁ、もうおしゃべり止めねェか? 友だちとか可愛いねーちゃんならともかく、退屈なおっさんと喋っても仕方ねェ」
クールは親指でルーシを指差す。そこには、準備万端と言わんばかりにプラズマを作ったルーシがいた。
「さよなら、エドモン・ダルジャン」
ルーシは残酷な笑みを浮かべる。
大型爆弾ほどの威力のプラズマが、エドモンに直撃した。
首都ダウンタウンを滅ぼしかねない威力で膨れた空気の放出エネルギーの処理は、急遽呼び出された〝ロスト・エンジェルス最強の魔術師たち〟セブン・スターズのタイラーが処理を請け負う形となる。




