〝幼女〟ルーシVS〝武人皇帝〟エドモン
ルーシは翼を器用に動かし、エドモンを突き刺そうとする。
エドモンはそれを軽く回避する。空中で、重力がないかのごとく。
ルーシとエドモンの対決が始まった。互いに手札を知らない者同士だが、最初から出し惜しみはない。
「なるほど、これがスオミ・アウローラを倒したという能力か。だが、まだなにか隠し持っているな?」
「教えるほど甘くねェよ、私は」
「なら、当てようではないか」
小男で今ひとつ覇気を感じられなかったエドモンは、突然神秘的なオーラを身に纏い始めた。まるで聖人のように、あるいは神のように。
黙ってパワーアップを見逃すわけもなく、ルーシは羽で攻撃を仕掛けようとする。しかし、羽はオーラにふれる寸のところで消え去ってしまった。
「貴様は、この世界ではありえない法則を操っている」
ルーシは顔を強張らせる。
エドモンは、狼との獣人に近いものになった。巨大な犬歯が生えて、身長が3メートルほどまで伸びる。
「しかしそれはあくまでも、異なる世界の理を、この世界で再現しようとしているに過ぎない」
エドモンの言葉に、ルーシは思わず笑みを漏らす。
「へェ……。そりゃあ、本質をついているな」
「そして、その変換には必ずほころびがある。たとえば──」
「ぐおッ!?」
刹那、エドモンは右手を内側に曲げた。たったそれだけの動作で、ルーシの胴部に傷跡が刻まれる。さながら〝カマイタチ〟だ。
「貴様の防御が絶対ではないことも──」
とはいえ、ここで引いたら名折れも良いところ。ルーシは羽を分離させ、ありとあらゆる法則をねじ込みエドモンを貫こうとする。
それでも、エドモンは外傷ひとつ負っていない。
「……ッ!!」
「貴様の攻撃は、交わそうと思えばいくらでも交わせることも」
原理は分からないが、このままだと負ける。エドモンは攻撃を仕掛けてこないが、ここまで言い当てられているのなら、ルーシへ効く攻撃手段も持っているはずだ。
(……こうなりゃ、金鷲の翼でも展開するか?)
されど、ルーシにも切り札がある。ロスト・エンジェルスの街ひとつを包み込めるほどの、雷撃を繰り出す必殺技が。
しかし、正直長い時間は保たない。保って2~3分だろう。それに、撃墜できない可能性も否めない。
切り札を切るか、それとも逃げに徹するか。冷静な無法者として、ルーシは二者択一の選択を迫られる。
「どうした? すでに諦めているのか? 潔いな。ならば──!!」
ここで、使っていなかった羽を使うときが来たかもしれない。この男に法則変換が通用しなくても、ルーシそのものには通じるだろう。
すでに羽は大統領府のほうまで向かっていた。ルーシは、祈祷するように人差し指と中指を立てる。
対して、エドモンはなにかの攻撃を繰り出そうとしていた。手のひらに赤いオーラが漂っている。やはり逃げるしかない。
そう感じ、ルーシは翼と自分の位置を入れ替える。
刹那、
「……、うまく行ったか」
なんとか逃げることに成功したようだ。ルーシは大統領府を駆け巡り、クールの寝室へ入った。
「クール、起きろ。ガリアの皇帝陛下が来やがった」
「あァ? なんでロスト・エンジェルスに」
クールは起き上がり、気だるそうに窓の向こう側を見る。
「おぉ、マジか」
「気の抜けた態度でいられるのは、ある種の才能だな……」
「つか、ルーシ。なんで傷だらけなの?」
「アイツにやられたんだよ」
「よっしゃ、おれが仕返ししてくるぜ」
端的な会話もあっという間に過ぎ、クールは窓ガラスを割って空へ舞って行ってしまった。
2回の異音で、使用人や事務局員が目を覚まし、クールの寝室へ向かってきていた。
「何事ですか、大統領……あれ? なんでお嬢様が」
「きょうの新聞でもテレビでも見れば分かる。それより、国内在留のセブン・スターズはいないのか? 大統領自ら出陣してしまったんだ」




