〝世界は変わる、自分の望むほうへ〟
「姉さん……!?」
ネイトは目を見開く。あのスオミ・アウローラが、見るも耐えない姿になって自身のもとへ投げ捨てられた。決して負けるわけのない女が、まさか、あのルーシに……!?
「なーに、ボーッとしているんだい!?」
ルーシは雷槌を操り、それをネイトに直撃させた。そんな〝災害〟に敵うわけもなく、ネイトは悲鳴とともに肉挽き器に放り込まれたのだった。
「る、ルーシ?」
「あァ……?」
メントは恐怖を覚える。あの根暗が敵わなかった者を、この幼女はあっさり殺してしまった。極限状態の中、メントは身体から力が抜けていくのを感じる。
「おれに関わったヤツらは、皆殺しだ!!」
カイザ・マギアなのか? いや、いくらルーシとはいえ、なんら躊躇なく友だちに〝服従術式〟を放つものか?
しかし、考えていても無駄だ。いまのルーシが正気とも思えない。メントはありったけの力で、ルーシに矢印を向かわせる。
だが、
「おい、そんなチャチな攻撃じゃあ、酔いが覚めちまうだろうが!!」
それらは反射されたかのごとく、メントの胴体からわずか数センチ離れたところに跳ね返される。
「もう骨のあるヤツはいねェのかぁ!? あァ!?」
もはやルーシは正気ではない。それは分かっている。もうパーラがなにを言っても止まらないかもしれない。
それでも、立ち上がる者がいる。
「……クソガキ」
メリットは、もう骨まで砕けているのに、なおも立ち上がった。
ピクピク、と放って置いても震える身体なんて気にも留めず、
「アンタは……、〝愛と平和の守護神〟なんじゃないの?」
急に押し黙ったルーシに、メリットは語りかけていく。
「そこにいる絶壁も、お姫様も、カマ野郎も、キャメルも、この場にはいないけど、ホープも、アルビノも、みんなアンタのことが好きだから命張ってる。それなのに、なんで、それすらも、放棄して、外道に、成り下がろうと……」
メリットは、それだけ言い残して倒れた。まだ死んじゃいないが、早くロスト・エンジェルスに戻さないと本当に死んでしまう。
そして、ルーシは、
「……、私はまだ死ねねェのか? まだ、許しちゃくれないのか? もう散々苦しんだ。必ず殺したいヤツも殺してやった。なのに、まだ死ぬことが許されないか?」
どこか錯乱した口調だった。ルーシらしくもない、焦りや悲しみが混じったセリフであった。
刹那、
「ルーちゃん!!」
どこからともなく、パーラが現れた。命を張っても良いと思える獣娘の少女が、ルーシの前に現れてしまった。
「もう辞めようよ! こんなの、ルーちゃんじゃないよ!! いつも言ってたじゃん!! 〝世界は変わる、自分の望むほうへ〟って!!」
メントは敵わないことを分かっていても、せめてパーラを逃がすべく闘おうとするが、
ルーシは力なく地面に落下してくるだけだった。