人道に対する罪(*)
「おう、馬鹿女。オマエはロイヤル家の養子だよな? 戦災孤児だったところを拾われたわけだ。だから見逃してやろうと思ったが……」
「おう、ハゲ野郎。良く分かってるじゃねえか。お父様とお母様には感謝し切れねえくらいだ。ただなあ……」
D-スペックとカルティエの魔力が膨張し、やがて衝突し始めた。
「あたしはなぁ!! アークたんとキャメルたんに結ばれてほしいんだよ!! だから、ここで死なせるわけにはいかねえ! 分かったか!! 腐れ外道!!」
ジョン・プレイヤー、アーク・ロイヤル、キャメル・レイノルズ……と連戦を続けてきたD-スペックは、熱量を持つ魔力による衝突に耐えきれなかった。彼は跳ねることなく、どこまでも、どこまでも、吹き飛ばされていく。
(まったく……笑えるほどに恵まれてるな、オマエら元王族は)
やがて倒壊しかけている民家にぶつかり、D-スペックはワナワナ、と身体を震わせながら立ち上がる。
「ひ、ひぃ!!」
民家は凄まじい速度で飛んできた、D-スペックが激突したことで崩壊する。ゲルマニアを襲った異常事態に怯える民間人の女性が、なんとか壊れゆく家から飛び出てきた。
「や、やめろ!! 妻に手を出すな!!」
その隣には、夫らしき男性もいる。農耕用のスコップを持って、D-スペックに立ち向かう姿勢だった。
「…………」
D-スペックは、なにも言えずにその場から飛び去って行った。
*
『ディーさん、アンタはなんで軍人になったんです?』
『どうした、藪から棒に。ジョン』
『いやー。言っちゃ悪いけど、先輩の思想ってLTAS国防軍の中じゃ異端でしょ? アンタはロスト・エンジェルス発展よりも、もっと先を見越してる気がするンすよ。なんつーか、生まれてくる時代間違えたっていうか』
『はッ、そうかもな。ジョン、おれはこの世界の改革をしたいから軍人やってるんだ。生まれたところや人種、種族、それらが抱える那由多の問題を乗り越えて、みんなが笑いあえる世の中を築きたいんだよ』
『閣下、クール・レイノルズ大統領から出頭命令が出ました。24時間以内に大統領府へ出向くように、と』
『なぜだ? まるで国家に反逆したような扱いじゃないか、その言い草だと』
『そ、それが……』
『おれが元王族を殺した、だと?』
『そ、そうです。クール大統領を始めとする長官たちは、そう捉えているようですが──』
『なるほど。若造だと思って舐めてたが、情報収集能力の高い男だな。現大統領は』
『え?』
『だが、おれは人道に従っただけだ。アルファベット大尉、いまから話すことは内密にしておけ──』
『ああ、知ってるよ。カルタゴ方面でレイノルズ家の連中が遊んでるんだろ? おれの親戚だな。それがどうしたんだよ?』
『そ、それが……突如現れたD-スペック閣下に、れ、レイノルズ家の方々が殺されたと』
『あァ? どういうことだよ? D-スペックはなに考えてるんだ? ……、しゃーねェ。出頭させろ』
『ほ、本当にあったのですか? そのような蛮行が』
『ああ。カルタゴに暮らす罪なき人々や少数種族は、レイノルズ家の連中によってガリアやアメリカーナに売られた。しっかりこの目で見てやったさ。何百回と、な』