"幼女"ルーシ”VS"武人皇帝"スオミ
「ヒヒヒッ……!!」
アーク・ロイヤルとキャメル・レイノルズが戦闘不能に陥った頃、ルーシは異様な笑い声を張り上げ、スオミ・アウローラと交戦していた。
互いの距離は離れているものの、どちらが優勢なのかは表情と口振りで分かる。
「アヒャヒャ……。あはは、ひゃはははは。楽しいなァ!! スオミィ!!」
身長155センチ程度の幼女ルーシの背中には、白い翼が広がっている。彼女のちいさな身体を包み込めるほどのおおきさだ。そして、羽のひとつひとつには、赤く充血した目が無数に垣間見え、それらは決してスオミを逃さない。
(クソッ……。あのガキ、やってることめちゃくちゃだぞ?)
もはや不条理の域である四方八方からの波動に、スオミの骨は何度もへし折れた。
そのたびに法則を操作し身体を再生させているが、その所為で攻撃ができない。一方的な消耗戦を強いられているわけだ。
また、ルーシの意志に呼応するかのように巻き起こる大雷鳴も不気味だ。いまのところ直撃していないが、当たれば身体の再生は不可能であろう。
(あたしが分け与えた超能力に魔力を混ぜ、更に天使の力まで振るってやがる……。せめて“天使の片鱗”を解けりゃ違うんだが……)
天使は人間を監視するために、この天と地の狭間に現れるのだという。そして彼女たちは極稀に、人間へ天使の力を付与する。
その力は、ある程度の魔術師ならば皆使える“悪魔の片鱗”を軽く凌駕している。
だからスオミは、どこからでも湧き出る衝撃波を避けつつ、法則を操りルーシから天使の力を取り除こうとした。
ところが、
「ぎゃああああああ!!」
新たな法則をこの世界に埋め込むべく、目を瞑った瞬間、スオミは激痛に悶えた。
ほんの一瞬で、ルーシはスオミの胴体を翼でつらぬいたのである。
「スオミィ!! くだらねェ真似してくれるじゃねェかァ!!」
ルーシは猛り笑い、流れるかのごとくスオミとの間合いを狭める。幼女らしい柔らかな手は拳に代わり、金色のオーラに包まれ、傷口を再生できていないスオミの腹部にねじ込まれた。
「ゲフぅッ!!?」
(──いまのは“悪魔の片鱗”!? このガキ、なんで天使と悪魔の力に耐えられるんだよ!?)
天使と悪魔は決して相容れることはない。近距離での肉弾戦で使われる悪魔の力と、断じて敵を逃さない天使の力。天使と悪魔は天敵同士である以上、このふたつを完璧に使いこなせる人間など、存在しないはずだった。
だが、ルーシがその常識を破った。有り体に言ってしまえば、たったそれだけの話である。
「良いねェ!! 楽しいねェ!! 愉快だねェ!! 素敵だねェ!! そうだろう!? スオミ!!」
腹部に風穴が空いたスオミ・アウローラは、ピキピキ……と眉間に血管を浮かばせた。
「なーに怒っているんだい? これはオマエの始めた物語だろう? スオミ、オマエ昔良く言っていたよな? 『世界は変わる。自分の望むように』と」ルーシは明るく歌うように、「もっとも、オマエのチンケな世界は──!!」
ルーシの翼が妖しく光った。
閲覧ありがとうございます。
ブックマーク、感想、良いね、評価、ぜひお願いします。