若大将(*)
ところ変わって超弩級戦艦『セーラム』の残骸近く。
アーク・ロイヤルはこうなることを察していたのか、自身の魔力でキャメルと赤い髪の少年を守った。無限にも等しいと評価された魔力があれば、事態に気がつけず落下していくだけだったふたりを守ることも容易い。
「はあ、はあ……。死ぬかと思ったぜ。ありがとよ、セブン・スター」
「気にしないで。それに、そんなことよりも……」
ただ、赤毛の少年こそアークに導かれて無事だったが、キャメルが意識を失っている。このまま放置しておくわけにもいかない。
「キャメルをどうやって起こすか、だね」
「“レジーナ・マギア”でも使えりゃ一瞬だろうけど、おれもアンタも野郎だしなぁ」
レジーナ・マギア。女王の魔法という意味を持つ、旧魔術の一種だ。主な効能は自らの魔力を誰かに分け与えること。そして女王というからには、女性にしかその魔術は使えない。
「レジーナ・マギア、か……」
「ん? なんか手立てあンのか? レジーナ・マギア使えそうなヤツはみんないなくなっちまったぜ?」
「たしかにあれがあれば色々解決するけど、ねぇ……」
アークは目を細め、溜め息を吐く。
「つか。おれいま気づいたんだけどよォ、アンタとはどっかで会ったような気がするぜ」
「そりゃ、ぼくは君から神経ガス奪ったからね」
「は? あンときのガキンチョ? 通りで強ェーわけだ」
「あの神経ガスは男性へ女性的な魔力を与える。副作用で身体が女の子っぽくなっちゃうんだけどね。まぁそれを狙ってたんだけども」
「へ? 野郎に女の子の魔力を付与するってわけ? いつだか社長から訊いたけど、この世界って女のほうが魔力の質が高けェんだよな? なるへそ、だからこのおれをボコボコにしてあのボンベ奪ったわけか」
ここまで会話を重ねておいて、アーク・ロイヤルは思わず間の抜けた声を上げる。
「そうだ。女性の魔力が宿ってるんなら“レジーナ・マギア”が使えるかもしれない」
「マジィ? まあ、アンタ女の子みてーな顔と雰囲気してるしなぁ」
「ありがとう」アークは満面の笑みだ。
「褒めてねェけどな?」怪訝そうである。
「とにかく、やってみる価値はある。こんな状況下だから、キャメルが動けるか動けないかでだいぶ戦局変わってきそうだしね」
アークは仰向けに地べたへ寝転がるキャメルのもとへ近寄る。そして小柄なキャメルの身体に触れ、自身の魔力を分ける。なんというか、めまいが強まるような感覚に苛まれながら、金髪で緑色の目の少年は華奢な幼なじみに魔力を注入していく。
「おっ、なんか動いてら」
心臓マッサージでもしたかのように、キャメルの身体が何度も振動する。その震えは、必ず復活につながるはずだ。
「心臓の鼓動が元に戻ってる……。って、あれっ?」
アークは股間部分に違和感を覚える。そこにあるはずのものがない。最長20センチに及ぶムスコが、ない。
「どうしたよ、若大将」
「……ねえ、この状況で女の子になっても闘えるかな?」
赤髪の少年は首をかしげるだけだった。
この小説ってTSものですからね、一応。
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