法による支配
『結婚しようよ、ルーシ!!」
『赤ちゃんがいるんだって! 私とルーシの子だよ! きっと夢の子になるはず!! だって、世界は変わるもん! 自分の望むほうへ!!』
『なんでルーシの子か分かるって? 直感! それに、子どもつくった子どもなんてスオミも嫌がるはずだよ!』
『スオミの支配から逃げられれば、きっとルーシも笑える日が来るって!』
『ああ? エウローペーのガキが妊娠したって? ガキがガキつくってどうするんだい?』
『しゃーねえ。ヤツは稼ぎ頭だが、ルーシを誑かすくらいなら死んでもらうしかない』
『ルーシはあたしの従順な奴隷だ。能力の開発までしてやってるんだ。逃さねえよ』
『はあ、はあ……。ルーシ、ごめん。スオミにバレたみたい。内蔵焼かれちゃってさ……。お腹にいる赤ちゃんも助からないって』
『げほっ……。たぶん私も死ぬみたい……。ごめんね。ルーシを独りぼっちにしちゃって』
『こんな生き地獄、死んだほうがマシなのかもね……』
『でも……きっとあの世でまた逢えるはずだよ! 絶望も希望もふたりで分かち合ったんだから!!』
『……お願いだからそんな顔しないでよ。涙目なんて似合わないし、今生で別れるだけだもん』
『赤ちゃんの名前は決めてあるんだ。『ルテニア』って名前。ねえ、ルーシ。これから死ぬ人間が言うのもあれだけど、生き残ってね。生き残って『ルテニア』の名前を持つ子をつくってあげてよ──』
『ぐっ……!! も、う会話できないや……。へへっ……。ルーシ、いらない希望を持たせてごめんね』
『よう、エウローペーはくたばったか。……あ? なに睨んでくれちゃってるわけ?』
『オマエの実力じゃあたしには敵わねえよ。分かりきったことだろうが。どれ……あんなビッチのことなんて忘れられるくらい“愛してやる”からよ……!!』
*
18世紀末期、ゲルマニア連邦帝国の帝都ゲルマニカ。数世紀もの間、ゲルマニア人が重ねてきた歴史と誇りは、超弩級戦艦が帝都中央に落下したことによって崩壊した。まるで核兵器でも撃ち込まれたかのように街は燃え盛り、ほとんどすべての生き物は死滅したのである。
「アヒャヒャ!! おもしれえなぁ!! ディーがいなかったら一気に占領されるところだったぜ!! だが……!! ルーシ!! オマエごときの考えを読めねえとでも思っていたのかい!?」
スオミ・アウローラは大炎上する教会の前で笑い散らす。その傍らには、ぐったりと倒れ込む幼女ルーシがいた。
「これで船に乗っていた連中も全滅だろうな? おい、ルーシ。昔教えてやったはずだ!! 『法による支配からは誰も逃れられねえ』と!! あたしはこの世界の法則そのものだ!! あぎゃひゃひゃひゃ!!」
異質な高笑いを飛ばし、スオミはルーシの頭をかち割るべく脚をあげた。
「──へえ……」
しかし、それでも地べたを這いつくばってルーシは逃げようとする。
(こんなところで死んでたまるかよ……。ようやく復讐の機会が目の前に来ているんだぞ?)
血反吐を吐きながら、意地だけを張り続ける。胴体こそ欠損していないから、この場を切り抜ければまだチャンスはある。
でも、どうやってそんな好機をつくる? ……アークでもメリットでもポールモールでも峰でもキャメルでも、誰でも良い。誰か、哀れな少年を、もはや少年でもない幼女を救ってくれ。
SEASON3 CHAPTER4『限界を越えて、新しい時代へ』スタート!!
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