因縁の果てに
「よし。私は君らを援護する兵隊どもの顔を拝んでくる。最終調整ってヤツだ」
そう言い残し、ルーシはなぜか立ち去ってしまった。どうやら精神的な不調は本当に一過性のものだったらしい。
……しかし、彼らは気づいているのであろうか。それがただのやせ我慢にしか過ぎないことに。
*
「……ふぅ」
一日中寒気が止まらず、めまいも激しい。正常な呼吸も怪しく、ぶどうのように顔は青ざめている。アークやメリットの前ではなんとか抑えられたが、正直まともな戦闘ができるのかも分からない。
「やあ、マスター」
「……、よう。ルテニア」
そんなルーシのもとへ現れたのは、自身の魂を持つヒューマノイドロボットだった。
「相当疲れているようだな。まあ、無理もない。マスターにとってスオミ・アウローラは天敵なのだから」
「天敵、天敵か……。そうかもな」
「LAS最強の魔術師クール・レイノルズ、魔力を浴びすぎて暴走したパーラ、野心あふれる若き強者エアーズ、守護天使クイン・ウォーカー……この世界に来てからの強敵も霞んで見えるほどに、だろう?」
「ああ、そうだな……」ルーシはなんとか息を整え、「アイツはとても厄介だ。あの女には目的がねェ。強いて言えば……誰かを征服したくてたまらない弾圧マニアってところだな。ヤクネタ以外の何物でもないさ」
スオミ・アウローラの考えは手に取るように分かる。かつて、ルーシが東欧からアジアの裏社会までを征服し始めたときのようだ。手段の世界征服を目的と錯覚している。なにかを成したいから大量の人間を統べていたのに、いつの間にか誰も彼も支配することに腐心するようになってしまった。
「なにかをやりたいから誰かを制す。彼女に目的があるとは思えない。あるとすれば、それは……」
「とりあえずの目標としてロスト・エンジェルスを制す。市民は全員奴隷同然。それくらいだろうな……」
クールやパーラ、エアーズにクイン・ウォーカー……いままでやり合ってきた相手は、すくなくともロスト・エンジェルス市民すべてを服従させようとは思っていなかったはずだ。
と、いつまでたっても抜けない迷子に迷い込んでいたところ。
『ルーシ!! 2時の方角から凄まじい速度でこちらへ迫ってくる魔力が──』
無線機越しのアーク・ロイヤルの悲痛な叫びで、ルーシは動かしたくもない身体にムチを打つように立ち上がる。
「分かった……。オマエも知っている通り、D-スペックの魔術は……『自身を気体に変える力』だ──」
刹那、戦艦が大横転でも起こしたかのごとく揺れた。つまり、戦闘開始である。
「……チッ。スオミの腐れ外道とD-スペック、どちらだ?」
どちらでも構わないが、どちらともに攻撃されればルーシたちは地上へ真っ逆さまに落ちていく羽目になる。
だが、スオミとD-スペックのような猛者がルーシたちを侮るわけがない。
『ルーシ!! そっちは大丈夫──ザザザザザ!!!』
超弩級戦艦に風穴が空いた。
次回、シーズン3最終章『限界を越えて、新しい時代へ』開幕です。
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