超弩級戦艦セーラムの中で
ロスト・エンジェルスを滅亡の危機から救った英雄のひとり、セーラム上級大将。その名前を冠した超弩級戦艦『セーラム』が天空から襲ってくるとは、ゲルマニアの軍人が如何に優秀であれど想定できていなかった。
「なんで……なんであんなデカい戦艦が空から降ってくるんだよッ!!」
常識など通用しない。1秒経過する度に全長300メートルに迫る軍艦が凄まじい勢いで落下してくる以上、なにかしらの手を打たなければ帝都の中央は見る影もなく崩壊する。
しかし、ルーシやアーク・ロイヤルの狙いは、ゲルマニカを地獄に変えることではなかったりする。主要戦闘要員となるこのふたりは、音楽家の都のひとつと名高いこの街へ敬意を払っている。故に、このまま戦艦『セーラム』をミサイルのごとく落下させる気はなかった。
「君がストップかけるなんて意外だったよ、ルーシ」
「私をなんだと思っているんだい? 何度も言ったじゃないか、私は愛と平和の守護神なんだよ」
「まあそんなことはどうでも良い。問題は、どうやって私たちが着陸するかでしょ」
「メリット、そりゃ愚問ってヤツさ。なんのために“ありえない現象・法則を操る”人間がいると思っているんだい?」
そう言い放ち、ルーシは地面まで300メートルまで迫ったところで戦艦の船首に触れる。なにかに掴まっていないと空に投げ出されるほどの速度で地面へ落下していくだけだった船は、一瞬で軌道修正した。ただいまロスト・エンジェルスが誇る超弩級戦艦は、天空を海だと誤認したかのようにゆるやかな動きに変わった。
「船酔いするヤツは?」
「してたら遠征行けないよ」
「で? ゲルマニカを極力無傷のまま手に入れたいのは分かったけど、結局武人皇帝のスオミ・アウローラを倒さないと意味がないんでしょ?」メリットは怪訝そうにルーシを見据え、「連中は武人皇帝のもと団結してる。だから現地での補給は期待できないし、占領能力なんて論外。本国からの援助だって限界があるでしょ?」
「良い質問だ、メリット。それについては後で答えよう──」
「いますぐ答えて。じゃないと集中できない」
黒い戦闘服装を身にまとい、軍人用の興奮剤を何本も打ち込み、この作戦が無事成功したら数ヶ月の入院は必至。とても花の女子高生とは思えないほど満身創痍のメリットは、それが故なのかルーシの論点ずらしには敏感であった。
「分かったよ、作戦の全貌を話してやる。どのみちひとりずつに役割を説明する予定だったけどな」
銀髪の幼女ルーシはいたずらっぽいウインクをして、タッチモニターへ触れる。ロスト・エンジェルス宇宙方面軍が提示してきたスオミとD-スペックの位置をさらけ出し、その幼女はニヤリとしながら言う。
「良いか? 簡潔に言おう。スオミの腐れ外道は私が倒す。D-スペックはアークがぶっ潰す。スオミの情婦のネイトとD-スペックの副官アルファベットは、オマエやキャメルお姉ちゃんが中心になって対峙し、援護要員として私の部下も出撃させる。異論は?」
メリットはしばし黙り込むものの、やがて頷いた。
超弩級戦艦と宇宙方面軍が両立する魔術世界……
いつも閲覧・ブックマーク・評価・いいね・感想をしてくださりありがとうございます。この小説は皆様のご厚意によって続いております!!