おれはアンタとは違う(*)
どんな理由があろうとも、この場を生き残らない限りにはすべてが無意味になる。それはジョン・プレイヤーもD-スペックも同様である。
一方、沿岸で爆音と爆風が耳をかすめる『ジョン・プレイヤー・スペシャル』所属の最精鋭兵士たちは、緊張の眼差しで戦場を見守っていた。仮にジョンが負けるようなことがあれば……いや、すでに彼を回収するために船が動いている。2,000キロメートルに及ぶ大移動はジョンの魔術で行われた。となれば、ジョンの魔力が万全でないと推測するのは間違っていないだろう。
「ジョンさん、負けねェよな……」
「当たり前だろ。ジョン・プレイヤーはロスト・エンジェルス最強の魔術師。ライバルのクール大統領が身動きできないことを考えりゃなおさらだ」
「カテゴリーⅦの評定金額15億6,000万メニーだもんなぁ」
そんなわけでジョンが負ける姿をまったく想定できていない部隊だが、彼らはひとつ忘れている。D-スペックもまた、カテゴリーⅦの14億3,200万メニーの化け物であることを。
それでも、彼らはジョンの負ける姿を想像できない。確かに、常識的に考えて1日で2,000キロメートルも移動したのならば、当然体力の消耗も激しい。優秀な部下に助けられ多少魔力を温存できたとはいえ、いまのジョンにかかっている負荷は並大抵のものではない。並みの人間ならば高熱にでもかかったかのようにうなされていてもおかしくないのだ。
ところが、ジョン・プレイヤーは意地を張った。確かに自身の部隊には有能な兵士がたくさんいる。D-スペックという軍集団並みの脅威さえいなければ、彼らにも即座に上陸命令を下していたはずだ。
「こんなところじゃ死ねないと。それと、なんだ?」
そんなジョンは口角をあげ、楽しそうに宣言する。
「ああ……アンタの正義をおれたちに押し付けるんじゃねェ」
刹那、ジョンは空中高く跳ね上がった。そして弾道ミサイルのように凄まじい速度でD-スペックとの間合いを一瞬で狭める。彼は泣けだしの魔力と体力を振り絞り、白いオーラのような現象が漂う右手でD-スペックの顔面を殴る。
「ぐおおおッ!!」
「こっちは瀕死も良いところなんだ……!! だから白兵戦に付き合ってくださいよ、ディーさん!!」
かろうじて姿勢を崩さなかったD-スペック。鼻血をあられもなく垂らしながら、憤怒に釣りつかれたかのような形相で、ジョンの腹部へ紫色の霊気が宿った脚で蹴りをかます。
「ぐおッ!! いてェなぁ!! チクショウ!!」
「痛みの伴わない正義なんて存在しねェっていつだか教えてやったよなァ!? その痛みを二度と味わわないよう学習できるのが人間の特権だとも!!」
「だからヒトに正義感を押し付けるんじゃねェ!! アンタとアルファベットのクソ野郎がロスト・エンジェルスの兵器盗んだから民間人にも危害が及んでるんだぞ!? 大量虐殺行ったヤツの言葉なんて響かないですよ! せんぱ──!!?」
「ごちゃごちゃうるせえなぁ!! 沿岸の兵士から魂抜きやがって!!」
スオミ・アウローラがジョンの腹部を翼で突き刺した。
大胆な不意打ちは悪役の特権?
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