おれの人生、おれのため!!
2024/3/27 めちゃ書き換えました。ぼちぼち次章も変更していく予定です……。
教員たちの意見はぶつかり合っていた。なにを成すにしても、血縁というものは大事であり、その頂点に立つ、歴代最高の血を持つ男のひとり娘。しかし歴代最高の男は歴代最低でもある。それは、いま彼がマフィアをしていることからもわかるだろう。
「正直、MIH学園は瀬戸際だ。新興学園に押されて、セブン・スターズ排出率がもう数年と経てば負けてしまうかもしれない。現状、我が校でセブン・スターズへ推薦できる可能性のある高等部生徒は、キャメル・レイノルズただひとり。しかもキャメルはクールの妹だ。そしてキャメルは、あくまでも推挙できる程度の実力しか持っていない。10年にひとりの天才は、100年にひとりの天才にはかなわない」
そんな学校のなかでも最高の権限を持つ教員たちが密談を行っていたら、
「よォ!! 先生たち!! 懐かしいな!! ひさびさに来たから窓ガラスとか割っちゃったけど、許してくれや」
問題の種が現れた。
「く、クール・レイノルズ……」
「ああ、クールだ。わざわざ敬称でいう必要なんてないぜ? 手短に行こう。ルーシ」
巨漢であるクールの後ろに隠れていたのは、銀髪碧眼幼女だった。
「うん、手短にね。先生の皆さん、簡単にいいます。契約金として1億メニー提示してください。こちらの条件はそれだけです」
教員たちは揃いも揃って口を開け、目を見開いた。
やがて、ひとりが思考を追いつかせ、いう。
「……1億メニーだと? 給付金の領域はとうに超えているが?」
「常識は破るためにあるんだぜ、ハゲ先生。このおれの娘だぞ? スキャンすりゃわかるが、魔力もスキルもすげェのは間違いない。それに……もう8000万メニーまでなら出すって学校を知ってるんだ。出せねェなら仕方ない。そっちへ行く」
当然、真っ赤な嘘である。ルーシとクールはきょうはじめて学校と交渉しているのだ。
「んで、おれら時間がねェんだ。この場で決めろ。1億か撤退か。でも、コイツを逃すのはもったいねェとは思うぜ?」
台本どおりだ。相手に考えさせる時間を与えず、クールの娘というブランドを最大限に引き出し、仮にスキャンという状況になってもランクA以上は確定的で、10歳でランクAならば必ずランクSになれると思わせる。ギャンブルスタートに見えて、しっかりと計算はされているのだ。
「……学力はあるんだろうな?」
「試験を受けても良いですよ。必ず合格点はとれます」
「……スキャンしろ」
「わ、わかりました」
カラスらしき生き物が運ばれてくる。ルーシはクールへ教わったとおり、その黒カラスの目をじろりと見つめる。そして1秒後には結果が出てくる。
「……こ、これはッ!!」
「現時点でランクSだとッ!?」
ランクS。基本はランクAの次の段階だと思われがちだが、その間には絶対的な壁がある。当たり前である。MIH学園の100年の歴史で、たったのふたりしかランクSと評定された者はいないのだから。
「……理事長と校長へ連絡しろ。来年と再来年の裏金を全部使ってでも、ルーシ・レイノルズを獲得しろと」
勝った。あっさり勝った。当たり前の話だ。ルーシの能力は前世から変わらず、超能力である。たいしてこちらの能力というものは魔術。つまり、ルーシの評価がランクSになるのは当然なのだ。この世には存在しないとされる能力を持っているのだから。
「さっすが、話が早くて助かるぜェ!! じゃ、この口座に1億メニー振り込んでおけや。4月からコイツは6歳飛び級で高等部1学年ってことにして、あとはしっかり通わせるからよ。一応おれも人の親だしな?」
そういい、嵐たちは去っていった。
「……ランクSは捨てがたい。だが、本当に良かったのかは、誰にもわからんな」
*
ルーシとクール、ポールモールは、あらかじめ伝えておいたように、彼女が一般入試を終えるのを駐車場で待っていた。
「姉弟、煙草なんか吸うなよ。肺が真っ黒になるぜ?」
「良いんだよ。てか、オマエもどうせ吸っていただろ?」
「まーな。18歳の誕生日でやめたけど」
「アニキは意外と健康に気を使ってますよね。クスリもやらないし」
「いつ死んだって構わねェが、苦しみながら死ぬのとあっさり死ぬとじゃ結構ちげえだろ? おれァいつか結婚して、妻とガキと孫に囲まれながら死にてェんだ」
「オマエに結婚は無理だろ」ルーシは苦笑いを浮かべる。
「わかってるさ。でも、夢くらい持ってねェと退屈だろ?」
「そうだな。私は結婚なんてするつもりはねェが……あえていえば家族がほしい。ある意味似通っているかもな」
まさか性別が変わるとは思ってなかった。まさか10歳児になるとは思ってなかった。
だが、本質はなにも変わっていない。
そんな与太話をしていると、疲れ切った表情の女が帰ってきた。
「ご苦労。飲み行くか?」
「……皆さん、私の名前を覚えましたか?」
「あ?」3人は揃って同じ言葉を発する。
「こんな扱いでも、せめて名前だけでも覚えてくれていたら、私もすこしだけ頑張れる気がします。だからいってください。私の名前を」
3人はニヤッと笑い、そろって首をかしげる。
そして、最初からこういうのが決まっていたかのように同じタイミングでいう。
「オマエ、名前なんだっけ?」
ヘーラーは首をガクッと落とし、どこかへ去っていった。
ルーシ、ヘーラー、クール、ポールモール、キャメル……そして新たな出会い。物語はまだまだ奇妙かつキテレツに、そして決して彼らを退屈させないように動き続ける。それだけは決定事項だ。
「それじゃま、行こうぜ。オマエら」
「おう!!」
「ああ」
「私は天使なのに……」
──転移してから1ヶ月くらい。悪くねェな。人生ってのは最高に愉快だ。おれはきっとそういう星のもとに生まれてきたんだな。絶対に退屈しねェようにな。クソみてェな経験も、おもしれェ経験も、すべてが最強で最高だ。これがおれの人生だ。誰にも文句はいわせねェ!!
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