質問は後回し
「ああ、よろしく。マスターの盟友たち」
ボブヘアのルーシとロングヘアのルテニア。それくらいしか違いが分からないふたりは、しかし問題のひとつだった“レイノルズちゃん”が暴れる問題をあっという間に(おそらくは)解決されてしまったからである。
「る、ルーシ。どうやって1万人くらい潜んでるらしいレイノルズちゃんを1日で平伏させたのさ? メリットさんと魔術の最終調整してたんでしょ?」
「アーク、オマエにしちゃ愚問だな。私は愛と平和の守護神だ。故に君らが不可能だと思いこんでいる常識を破ることなど容易いのさ」
まったくもって質問に答えるつもりがないらしい。アークは首を振って軽い溜め息をつきながら、手を広げて椅子に座り込む。
「動きがうるさいな」
「これくらい動きたくなるさ、君の馬鹿げた能力考えると」
「で? 最終的に動かせる戦力ってどうなったの?」
メリットは病み上がりということもありかけていたメガネを外した。彼女は目を手で覆い、気だるそうな態度はそのままに視力を一時的に回復させた。
「学徒動員というのはこういうのを指すんだろうな。ほら」
「……こりゃひどい」
メリットは思わず絶句しかけた。
『ルーシ・レイノルズ:カテゴリーⅥ』
『アーク・ロイヤル:カテゴリーⅦ』
『メリット:カテゴリーⅥ』
『峰:カテゴリーⅥ』
ほかキャメル・レイノルズを始めとするカテゴリーⅤが数名。厳しすぎる状態だ。
ロスト・エンジェルスが突然発表した魔術の格付けにおいて、すくなくともルーシに匹敵するという評価をくだされた者はあの幼女を含めてわずか4名。
対してこれから闘う相手は、『D-スペック:カテゴリーⅦ』と彼の部隊に連なるカテゴリーⅥ、カテゴリーⅤはあるはずの精鋭たち、そして確実にカテゴリーⅥ以上の評定をくだされるであろうスオミ・アウローラ。
「数字だけで勝敗は決まらないぞ?」
ただ、ルーシの目つきに悩みはなかった。この戦力でも充分闘える策があるのか、援軍を使える余地があるのか。所詮民間人であるメリットには分からぬ話だ。
「ポールモールさんは?」
「おお。良い質問だね、アーク。それについては後で答えよう」ルーシはタバコを咥え、「しかしもう時間だ。オマエらも出されている薬や大麻、タバコがあるのならいまのうちだぞ?」
ルーシはタバコに火を付け、ルテニアは葉巻みたいなものを片手に椅子へ腰かけ、アークは瞑想するかのように目を閉じ始めた。
「なに? いくらこの戦艦がすごくても、5分くらいでゲルマニアへの上陸ができるわけ──」
「メリット、オマエはまだ常識にとらわれている。それじゃせっかく完成した新魔術も活きないぜ?」
戦艦が空を飛ばない? そんなことはすべての学問が否定している? いや、誰も彼も知らないだけさ……。あの幼女になってしまった21世紀最大の怪物が、そんな常識を片端から否定できると。
「ずいぶん良い天気じゃないか。これから大雷鳴に変えてしまうのが惜しいほどに……!!」
雲より高い場所に飛んだ戦艦の窓から、ルーシはそうつぶやいた。
"良い質問だ"と言って質問へ答えない……まあ意図的だよね
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