ルーシいわく、理想の政治家
『そうかもしれませんな』
峰の返事は淡白だった。しかし彼もまた、同じように考えているはずだ。
「……、そうさ。腐ってなんかいねェ」
『どうされましたか?』
「なんでもないさ。峰、スターリング工業の幹部はポールとクール以外全員出撃だ。日付が変わる頃に攻撃を開始する予定で行く」
『承知しました。マーベリックとリヒトのガキにも招集命令をしておきます』
ルーシは電話を切り、すくなくとも最前よりは色づいた顔色のまま病院を出ていくのだった。
*
「姉弟、動けるのか?」
「オマエに心配されるほど落ちぶれていないさ。クール」
「本当かよ。顔色悪すぎるぜ?」
ロスト・エンジェルス国防省では、名目上連邦国防軍の最高司令官となるクール・レイノルズと国防のために私設軍隊を動かせるという彼の娘ルーシ・レイノルズがふたりきりで会談を行っていた。
と、いうのはマスコミに向けた建前だ。実際のところ、最終的な決断を下すだけの存在である大統領クールの仕事量は案外すくないし、なにより自身にとって五分の姉弟が死人のごとく訪れたから暇つぶし感覚で喋っているだけだったりする。
「しっかしよォ、おれも大統領なんかなるんじゃなかったぜ。この仕事まったく楽しくねェし、マスゴミどもはやかましいし、なにより自由に動けん。今回の動乱だっておれとジョンがいりゃ2時間で終わってたってのによ~」
「立場がヒトをつくるというが、そんな退屈な常識通用しないか」
「おれァ自由でいたいからな。殺し合って愛し合って楽しみ合って……国のトップに立つとそれもできなくなっちまう。おれにァ向いてねェな」
茶色い髪にパーマをかけ七三に分けてオールバックにしている男前なクールは、その風貌どおりというか、束縛されることをなによりも嫌う。それもあって、クールは闘いたくて身体を忙しく動かし続ける始末であった。
が、支持率90パーセント超えの大統領が戦死したとなれば、市民の士気は途方もなく下落する。そんなことくらい分かっているので、クールはますます動けない。
「もっとも政治家に向いているヤツが政治嫌いなんて……天は二物を与えずって言うしな」
「おれのどこが政治家向きなんだよ、姉弟。3日に1回は大統領府へ女の子連れ込んでる様子撮られてるんだぜ?」
「それでも支持されている。独裁国家でもないのにな。なんでか分かる?」
「悪りィ。さっぱり分かんねェ」
「オマエは国益のみを考えて動いているからだ。他国の連中を奴隷同然、あるいは奴隷にしてでもロスト・エンジェルスを富める国に変貌させようとしている。それに、いろんな問題を絶対に独断で決めない。専門家や転生者を使って知見を得つつ、彼らが矛盾点を見せたら即座に追及し、最終的にはオマエが決める。私の思う理想的な政治家だな、オマエは」
舌に火でもついたかのように喋り続けたルーシは、突如頭を抑えてソファーから地面へ倒れ込んだ。
「どうした!?」
しかし、ルーシはニヤリと笑っていた。難解なパズルでも組み上げたあとのように。
あくまでもルーシの思う理想の政治家なので多少はね?
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